月: 2020年9月

特殊!!会社のみなし役員

 会社の税金について定める法人税では、役員報酬を会社の損金にするには厳しい制限があります。

 詳しくは「役員報酬は変えられない!!」をご参照ください。

 また法人税法上の役員は取締役や執行役、監査役や理事などの会社法上の役員に加えて、みなし役員という概念が存在します。みなし役員とは、会社の法律である会社法上の役員に加えて、法人税税法上で独自に役員と判定される人をいいます。

会社法上の役員の範囲

 取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人など、基本的に定款や登記簿謄本などで外部に表示されている方々をいいます。

法人税法上の役員の範囲

 役員の範囲は、法人税法並び、法令、基本通達(行政側の取り扱い)でこのように定められています。(国税庁ホームページ タックスアンサー NO.5200)

 法人税では役員とは次の者をいいます。

  1. 1 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人
  2. 2 1以外の者で次のいずれかに当たるもの
    • (1) 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者でその法人の経営に従事しているもの
       なお、「使用人以外の者で、その法人の経営に従事しているもの」には、例えば、[1]取締役又は理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長等、[2]合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員、[3]人格のない社団等の代表者又は管理人、又は[4]法定役員ではないが、法人が定款等において役員として定めている者のほか、[5]相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるものも含まれます。
    • (2) 同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち、次に掲げる全ての要件を満たす者で、その会社の経営に従事しているもの
      1. イ その会社の株主グループ(注1)をその所有割合(注2)の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50%を超える第一順位の株主グループに属しているか、又は第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属していること。
      2. 口 その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。
      3. ハ その使用人(その配偶者及びこれらの者の所有割合が50%を超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5%を超えていること。
  1. (注1) 「株主グループ」とは、その会社の一の株主等及びその株主等と親族関係など特殊な関係のある個人や法人をいいます。
  2. (注2) 「所有割合」とは、次に掲げる場合に応じて、それぞれ次に掲げる割合をいいます。
    • (1) その会社がその株主等の有する株式又は出資の数又は金額による判定により同族会社に該当する場合
       その株主グループの有する株式の数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除きます。)の総数又は総額のうちに占める割合
    • (2) その会社が一定の議決権による判定により同族会社に該当することとなる場合
       その株主グループの有する議決権の数がその会社の議決権の総数(議決権を行使することができない株主等が有するその議決権を除きます。)のうちに占める割合
    • (3) その会社が社員又は業務執行社員の数による判定により同族会社に該当する場合
       その株主グループに属する社員又は業務執行社員の数がその会社の社員又は業務執行社員の総数のうちに占める割合

(法法2、法令7、71、法基通9-2-1)

 

やっぱり難しいですね・・・

解説

 法人税法上の役員は、まずは会社法上の役員が役員であることを明言しつつ、その他に税法独自の役員の範囲について定めています。このその他の部分がいわゆる、みなし役員です。

 では、どのような人がみなし役員となるのか重要な部分を解説していきましょう。

① 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者でその法人の経営に従事しているもの

 条文にも書かれていますが、これはいわゆる相談役とか顧問、あるいは取締役とは別にいる代表などと社内外から呼ばれる、または名刺なんかにそういった肩書がある人たちで、経営に従事している人たちです。ちなみに経営に従事しているかどうかは実態で判断されます。本人が否定したとしても、会社の社内外から経営に従事していると認定されているような場合ですと、経営に従事していないという主張は通りづらいでしょう。

② 同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち、次に掲げる全ての要件を満たす者で、その会社の経営に従事しているもの

 イ 同族会社とは

同族会社とは、会社の株主等の3人以下並びこれらと特殊関係にある個人または法人によって、その会社が株式会社であれば発行済株式か議決権の50%超、あるいは合名会社合資会社の場合には社員の過半数が、占められている会社をいいます。

 要約すると、会社の3人以下で、その会社の出資の半分以上を有しているので、会社の決定について大体はその人たちの意思がとおるような状態です。

 ロ 使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)とは

 使用人とは、部長、課長、主任あるいは何の肩書もない役員以外の社員の方々をいいます。職制上使用人としての地位のみを有するとは、取締役部長などという方もいますが、こういった人を除き、純粋な使用人としてのみの肩書をもつひとをいいます。

 ハ 次に掲げる全ての要件を満たす者

 これは株式の所有割合の要件です。条文に書いてあるままなのですが、簡単にいうと株式などの出資で、その人が支配力を行使できるグループ(親族関係など)にいて、かつ5%以上の株式をもっていると対象になるということです。

 ニ 小まとめ

 つまり、同族会社で働いている使用人や一般的な従業員であっても、経営に従事しているとみなされて、そのお父様やお母様などの親族関係でその会社の株式をかなり保有していて、かつ自分も会社の5%以上の株式をもっている場合には、みなし役員として、役員報酬の制限をうけるということです。

大まとめ

 経営に関わっているとみなされる方で、相談役などいわゆる通常の使用人とは異なる職制上の立場が付与されている方や、同族会社の使用人であっても親族関係などで株式の所有割合が一定になる方は、役員報酬の制限の対象になる可能性が高まります。

 みなし役員に該当するかの判定はかなり複雑ですので、事前に税理士に相談することをおすすめします。

役員報酬は変えられない!!

 起業される方などについて会社の税金について、最初に驚くのは役員報酬ではないかと思います。

 「え!!役員報酬って変えられないの!」

 そうです。会社の税について定めている法人税法には、役員報酬の変更には非常に厳しい制約があるのです。

 その趣旨について簡単にいってしまうと、役員報酬を自由に変更してしまえるような状態ですと、会社の利益を自由に操作して、法人で殆ど税金を払わないなんて状態がおきてしまうこと防ぐ目的があるわけです。

 では、まずは役員報酬、つまり役員のお給料が、会社の経費(法人税法上は損金といいます。)として認められるための要件をご説明します。役員報酬については法人税法34条に定められているのですが、税法上の用語を理解していないと読むことができず、かなり難解な条文となっておりますので、中小企業の社長にとって重要と思われる部分を解説していきます。

解説

 まず法人税法34条についてまず役員報酬は、金銭の支出による単純なお給料だけではなく、経済的な利益を含むことを理解してください。経済的な利益とは、例えば会社が役員に対しての貸付金を免除した場合だったり、あるいは会社が役員自身の責任で起こした事故の損害賠償金を肩代わりしたりといった時に、役員がうける利益などをいいます。

 法人税法34条では、次の3つの要件のすべてをクリアすることで役員報酬を会社の損金(いわゆる経費)とすることを認めています。

① 1項基準

 その役員報酬が、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の要件を満たす業績連動給与(これは中小企業にはあまり関係がないので省略します。)であること。法人税法34条1項に定められているため、これをいわゆる1項基準といったりします。

では定期同額給与、事前確定届出給与とは何でしょうか?

定期同額給与・・・一般的にはその会計期間の開始の日から3ヵ月以内に株主総会により決議されるもので、各支給月における支給額が同額である給与

事前確定届出給与・・・いわゆる賞与ですが、利益操作につながらないよう支給時期及び支給額を事前に税務署に届出しなければならない。届出書の提出期限は株主総会による決議の日から1か月以内とその会計期間開始の日から4か月以内のいずれか早い日。新たなに設立した法人については設立の日から4か月以内。

 つまり毎月のお給料は同額を支給すること、賞与などについては事前に税務署に届出をだすことが求められています。役員には利益還元的な賞与は認められない、ということですね。

 ただし主に二つ例外があります。

 ①臨時改定事由・・・役員の役職の変更などにより定期同額給与を変更する場合。役員報酬の変更をする役員の役職の変更が定款や株主総会決議等により客観的に判断できることが重要です。租税回避が目的であると判断されると認められませんので注意が必要です。

 ②業績悪化改定事由・・・業績悪化を理由に役員報酬を減額する場合。自分の会社または得意先の会社の業績に悪化が著しく悪化で役員報酬の減額も利害関係者との関係性からやむを得ないような状況です。単に、資金繰りの悪化や、業績目標に達しないなどの理由では認められません。

 臨時改定事由又は業績悪化改定事由に該当にすれば、毎月のお給料を変更することも可能ですが、こちらの判定には客観的にその状況を税務署に理解してもらう必要があり、慎重な判断が必要になります。

② 2項基準

 その役員報酬が不相当に高額でないこと。法人税法34条2項に定められているため、これをいわゆる2項基準といったりします。
 とはいえ、不相当に高額といわれても、どこからが不相当であるかなど曖昧でわからないと思います。
 

 不相当に高額であるか、どうかについては2つの基準があります。

形式基準

 形式基準では、株主総会や取締役会等で決定された役員報酬の上限額を超えていないかどうか、で判断されます。役員報酬は一般的には株主総会等の決議に関する議事録に役員報酬について定めるのですが、場合によっては定款などに役員報酬の限度額を定めている場合があるので注意が必要になります。そもそも設定した目的はコンプライアンスとか利害関係者に対する配慮であったりはするのですが、株主総会や定款に定めた限度額を超えていると判断されると、越えた部分は不相当に高額とみなされます。

実質基準

 実質基準では、その役員の職務内容や会社の収益、従業員に対する給与の支給状況、類似法人の役員報酬の支給状況等から、支給している役員報酬が不相当に高額となっていないかどうか、で判断されます。 国としては極端な租税回避を防止するための基準ですが、客観的な基準はなく、税務調査時の判断ということになります。
 

 しっかりと売上や利益をあげている会社の役員の役員報酬が高い分にはあまり問題がありません。

 問題になりやすいのが、会社が多額の赤字を計上しているのに役員に高額な報酬が支給されている場合や、非常勤の役員(特に親族)に対して役員報酬を支給している場合は、税務調査で勤務などの実態が論点となりやすく、役員報酬が適正であるか、前もって検討しておくことが必要です。

③ 3項基準

事実の隠蔽や仮装するような経理をしていないこと。

法人税法34条3項に定められているため、これをいわゆる3項基準といったりします。

これはごく単純な話で、ウソや事実と異なる理由によって役員報酬を支給している場合には認めません、ということです。

そもそも支給している実態がないお給料などがこれに当てはまります。帳簿の動きだけで支給しているように見せかけても認めません、ということです。

まとめ

 役員報酬は3つの要件を満たす必要があることについて説明してきました。

 一般的な毎月支給されるお給料については3か月以内には決定した支給額を支給し、いわゆる賞与の場合には届出をした支給額を支給時期に支給しなければなりません。これを守らない場合には、税務調査時にそれが発覚すると、これらの役員報酬が部分的またはすべて否認されることとなります。

 さらに、2項基準では不相当に高額ではなく、3項基準では偽りや仮装経理でないことが要件になっています。

 役員報酬が否認される場合には、否認された部分の報酬は法人税の課税所得となり利益がでれば否認された部分の法人税を追加で支払わなければなりませんし、すでにお給料として計上している部分の所得税は減額等なく変わりません。法人税法上で役員報酬が制限されていたとしても、実際にお給料が出ているのなら所得税は払わなければいけないわけです。役員報酬が否認されてしまうと、税金上はかなり大きな負担になることがおわかりになると思います。

役員報酬への対策はどうすればいい?

 このように厳しい制限のある役員報酬ですが、経営者にとってもっとも厄介なのは事業年度のはじめに決めた金額を動かせないということではないでしょうか?

 「今年、1年の成績がどうなるかなんてわからない?」と。
 その1年の業績に対して役員報酬が多すぎれば会社には多額の赤字が計上され、金融機関に借入などがある場合には信用が落ちるでしょうし、また役員報酬に課せられる社会保険料、所得税、住民税などの税負担により資金繰りが悪化する可能性があります。とはいえ、その1年の会社の業績に対して、役員報酬が少なすぎれば、会社には多額の法人税が課せらます。その翌期以降は法人税を引かれた後の現金から役員報酬をはらい、ここから社会保険料、所得税、住民税などがひかれていくと、稼いだ現金のうちかなりの金額が税金でひかれてしまうことになりかねません。

 こういった事態を少しでも緩和するためには、決算期にはしっかりと過去のデータを照らし合わせて、限られた情報のなかでもしっかりと会社の業績予測をおこなっていくことです。会社の毎月の試算表をしっかりと整理していけば、業績予測や適正な役員報酬の算定のために必ず有用な情報になります。

 臨時改定事由又は業績悪化改定事由に該当し、会社の状況に合わせてお給料を変更できたのに見過ごしたため、融資対策や不必要な税負担で会社をさらに窮地に陥らせることもありえます。

 またこれに加えて、そもそも役員になる人について税法独自の基準があるので注意が必要です。これを法人税法では、みなし役員といいます。みなし役員についてはこちらの記事をご参照ください。

 【特殊!!会社のみなし役員

 会社の税金について定めている法人税法のなかでも難解な条文になっております。判断に迷うような場合には税理士に相談されることをオススメします。

自己資金が足りない!!

「創業融資の審査は難しすぎる~創業融資の審査ポイント(5)~」でも述べましたが、創業融資の審査は「創業する事業の業務経験」と「自己資金」が非常に重視されます。

今回はそのうち自己資金について説明します。

 なんで自己資金が必要なの?

自己資金の要件についてはかなり緩和された印象がありますが、従前は投資額1/3が必要だったところ、急に1/10でいいのかというと、なかなか難しいところではあります。  そもそも何故、金融機関が「自己資金」を重視するのかというと、それは創業した後の事業の財務基盤の強さをみるためという部分もあるのですが、むしろ創業者の創業に対する準備や覚悟をみているという点が強いです。つまりは、自分の事業にどれだけの資金の準備をして、どれだけ使うのか、ということです。お金は全てではないのは当然ですが、お金をしっかりと用意するのが大変だからこそ、自己資金の有無は説得力をもつわけです。

とはいえ、なかなかお金を貯めるのが難しいというのも事実です。特に、創業を考えるような方々は、手に職をつけるような技術職や専門職にお勤めの場合が多いのですが、そこでの就業環境は修行して手に職をつけながら生活していくという側面が多々あり、そこで資金を蓄えられるか、というとなかなか難しいのが現実ではないでしょうか。

自己資金が足りない場合の対策

 上記のような理由があり、金融機関のなかでの自己資金とは「創業者が自分で働いて、毎月貯蓄を積み上げてきた金額」を基本的な定義としています。ですので、自己資金の蓄え方も重要になります。金融機関は審査において、通帳の原本を確認しながら、自己資金の成り立ちを確認していきますので、いきなり現金をもってきて「これが自己資金です。」というのは「見せ金」を疑われ、自己資金としては認められづらいです。

 そこで自己資金が足りない場合の対策をいくつかお伝えします。

親族からの贈与

 近年、日本政策金融公庫では身内からの贈与も自己資金として認めてくれるようになってきています。金融機関の担当者は自己資金を通帳で確認するので、一時的にお金が増えるのは「見せ金」を疑われます。そのお金をしっかりと預金口座にいれ、贈与契約書などを交わして、お金の出所を明らかにし、間違いなく創業事業につかえるものなのだと証明する必要があります。

みなし自己資金の活用

 本来、自己資金とは手持ちの預貯金などを指しますが、創業などにあたりすでに経費の一部を支払ってしまっている場合はよくあるかと思われます。よくあるケースとしては、不動産の賃貸のための敷金保証金や、内装費、機械設備などの購入金額、事業に欠かせないような権利の取得費用などです。

 例えば、手持ちの預金が500万円で、すでに事務所などの賃貸のために敷金保証金を200万円、複合機や事務所でつかうオフィス用品に100万円ほど、その他事業に必要な権利関係のために200万円ほど支出していた場合には、手持ちの自己資金500万円に加えて、これまでに支払った合計金額500万円(200万円+100万円+200万円)がみなし自己資金として認められます。

 もちろん口頭だけで説明してもなかなか信用はえられないでしょうから、創業に必要な経費の領収書や請求書類は必ず保管しておきましょう。

現物出資

手持ちの預貯金などがない場合には、自分のもっている資産を会社に資本金として差し入れることができます。これを現物出資と言います。

 創業者の持っている車両や個人事業者時代の商品などがよくあるパターンです。

 ただし、主に以下のような注意点もあります。

 ①現物出資できるものは何でもよいわけではなく、貸借対照表にのせられるものでなくてはならない。創業者やその他の個人の役務の提供は認められない。

 ②出資額が500万円を超える場合には、弁護士、税理士、会計士などの鑑定が必要になる。

 ③出資は出資者から会社への譲渡として扱われるので、場合によっては出資者に所得税がかかる。

 現物出資額が500万円以下であれば、手続きもそれほど煩雑ではないので、自己資金に不安がある方におすすめです。

制度融資の利用

 上記の方法を検討しても自己資金が厳しいという方は、制度融資のご利用を考えるべきでしょう。制度融資は1000万円の融資までは自己資金の要件を定めていません。

 ただし、要件では自己資金がなくとも申込可能ですが、現実的には思ったような融資の条件を認めてもらうにはなかなか厳しいということを留意してください。

まとめ

 「自己資金」は緩和されたといっても金融機関にとって極めて重要な判断材料です。しかしながら、「事業の業務経験」やビジネスそのものの収益力の高さなどの魅力をつたえることができれば予定通りの融資条件を引き出すことも十分可能です。

 あるいは少し自己資金に不安がある場合には、融資の申込みを一度保留して、少しの間待つことができるのであれば、自己資金の蓄積に備えるというのも現実的な手段ではあります。

創業融資の審査は難しすぎる⁉ ~創業融資の審査ポイント(5)~

 創業融資のポイントとして、創業融資の審査ポイント(1)創業融資の審査ポイント(2)創業融資の審査ポイント(3)創業融資の審査ポイント(4)で長々と述べさせていただきました。

 人によっては創業融資の審査は自分にはちょっと厳しいのではないかなぁ、と思われた方もいらっしゃるのかもしれません。また他の人から創業融資は審査が厳しいよ、また融資は滅多に受けられないよ、みたいなお話を聞いたことがある人もいるかもしれません。

 全く不安がる必要はありません。実際に創業融資でどの程度の確率で融資が実行されているかまでは明確なデータはありませんが、近い過去の支払いなどで未払いや自己破産などの大きな問題がなく、しっかりとした事業計画をお持ちで、そのための業務経験を積まれている方についてはかなり高い確率で融資は実行されます。

 それではまずそもそも金融機関が融資にあたりどのような考えに基づくのかをご説明します。

融資の基本5原則

 金融機関は、融資の審査にあたり融資の基本5原則というものを重視します。これは創業融資だけではなく、事業に対する融資全般についてです。

 融資の基本5原則とは、安全性の原則・収益性の原則・成長性の原則・流動性の原則・流動性の原則の5つからなります。

①安全性の原則

 金融機関としては融資したお金を返済してもらわなければ、その金額は貸し倒れとして融資した金融機関の損失となります。金融機関は公共的な要素が強いのですが、営利を追求する組織でもあります。株主やその組織に従事する人々に対して利益を還元することで成り立っています。債務不履行による損失はそういった利益を圧縮するので、金融機関は当然ですが、融資に対して慎重な姿勢で挑みます。

 創業融資などについては日本政策金融公庫や制度融資が行うもので、損失が生じても金融機関はその融資額については直接的な被害はありません。ただだからといっていい加減な審査をすれば信用問題に発展し、金融機関としての機能を疑われ、立場が危うくなります。
 またその融資額が保証されていたとしても、その融資の実行までの労力までは保証されませんので、いずれにせよ金融機関にとって融資の安全性は非常に重要です。

②収益性の原則

 金融機関は株主や従業員のために利益を出さなければなりません。

 そのためにすることは、「金利を引き上げる」「融資額を増やす」「貸し倒れ率を下げる」「調達コストを下げる」の4つが大きなポイントになります。

 例えば、単純に金利をあげるといっても、高い金利であれば顧客はその金融機関からの融資はさけるでしょう。そういった場合には信用力が低いような事業に対して、少し高めの金利で納得してもらう、などという企業努力をします。
 この点については、金融機関によって考え方がかなり異なります、融資額の大きさを重視するのはメガバンクなどでしょう。大きい金額の融資を実行することで、金利は低くとも信用力の高い法人への融資額の大きさで利益を確保します。

 制度融資などを積極的に行う信用金庫では信用力がやや低い創業した事業などへ手厚くサポートや貸し付けを行うことで、やや高めの金利を設定しています。

③公共性の原則

 銀行は一企業であると同時に、日本経済に対して大きな影響力を持つ企業でもあります。

 いわゆる反社会勢力や問題になっているような悪徳企業、詐欺などを行う企業にどんどんお金を融資してしまったら・・・日本全体に悪影響を及ぼします。

 そのため金融機関は一企業でありながら公共性も担保しなければならないのです。 融資審査の中で、反社会勢力とのかかわりなどが明るみに出れば、審査は通りません。金融機関は独自の調査で反社会勢力と関わりの強い業態や人物をピックアップおり、場合によっては思わぬところで審査が通らないということはありえます

④成長性の原則

 金融機関は顧客の企業が成長していけば、金利を増やさなくても、融資額が大きくなっていくことで、利息収入を増やすことができます。銀行は、金利を上げなくても、融資している金額が大きくなれば利息収入が増えるのです。顧客の成長と返済実績にともない、さらに大きな融資をおこなっていけば金融機関にとっては好循環を生み出せます。

 銀行が融資した企業に対して顧客の紹介や経営面のアドバイスをするのは「企業の 成長が銀行の利益につながる」ことを理解しているからです。

⑤流動性の原則

 流動性というのは「現金としていつでも使える資金の割合」のことです。

 金融機関にとっては長期の融資はいつでも使える資金ではなく流動性が低いというデメリットがあります。まず顧客の倒産リスクは時間がたつほど上がりますし、融資の基となる資金の調達コストにもあがりかねません。

 短期融資ではその流動性のデメリットを緩和することができます。

 この「流動性の原則」のため、企業の信用力がついてくるまでは長期の融資は審査が厳しくなり、短期の融資の方が審査に通りやすくなっています。

創業融資の審査ポイント

 それでは上記の「融資の基本5原則」をふまえた上で、金融機関は創業融資にあたり最も重視するポイントを端的にいえば、「創業する事業の業務経験」と「自己資金」です。これまで創業融資の審査ポイントとして、説明してきたポイントも極論をいってしまえば、その大部分はこの2点の審査へと帰結されるといっても過言ではありません。これを融資担当者は「創業への準備」又は「企業への準備」というような表現をします。

 自己資金について日本政策金融公庫はかつて投資額の1/3程度が要件になっていましたが現在は投資額の1/10からとっており、中小企業保証協会が保証する制度融資では自己資金の要件はありません。とはいえ、自己資金が全くない、または投資額に対して少なさすぎるとみられてしまうと、「創業への準備」又は「企業への準備」への姿勢が疑われ、良い評価にはつながりません。

 しかしながら、融資が実行される方のすべてがこれまで述べてきた審査のチェックポイントの全てを問題なく満たしているわけではりません。むしろそういった方は融資のお申込みを希望される方の全体の割合では少数といってもよいです。感覚としては、審査にあたりまったく問題ないだろうという人が2割程度、これはお手伝いしても審査は無理だろうなという方が2割、しっかりとした審査への準備をしていけば可能性があるだろうという方が残りの6割程度といった割合でしょうか。

 これまで審査のポイント述べてきた部分のどれかが弱い、欠落していたとしても、その他の部分の強みでカバーすることは可能です。

 例えば、自己資金が不足又は全くない、あるいは創業者ご自身の財務状況で負債が多額にあるなどといった場合でも、事業の業務経験がしっかりとしていてビジネスの内容に希望もてれば金融機関は前向きに検討してくれます。

 あるいはその逆に、やや事業の業務経験に不足が感じられるような場合にも、自己資金や財務状況で潤沢な資金があることを理解してもらえれば金融機関から高評価をえられる可能性が高いでしょう。

 創業融資の審査には明確な基準がないといわれています。つまり審査のポイントは各担当者が一方的な減点方式ではなく、良い部分もみてくれる加点減点方式でバランスをとっているのが実態ではないかと想定しています。ただし、融資の5大原則をみてみればわかるように、公共性の原則に触れるような絶対にダメなポイントも存在します。

 こういった基準のつかめなさが創業融資をうけるのは難しいという印象をあたえがちなのですが、決してそんなことはないので、ぜひとも積極的に活用していきましょう。

経営者の財務状況で重要なポイント ~創業融資の審査ポイント(4)~

 創業融資の審査ポイント(1)でお伝えしたとおり、創業融資の審査ポイントは「事業の収支見込み」「経営者の能力」「経営者の財務状況」の3点に大別できます。ここではそのうち「経営者の財務状況」について説明します。

 金融機関が経営者の財務状況を審査の対象にするのには概ね2つの理由があります。

 一つ目は、起業後の資金的なゆとりのためです。起業はなかなか利益が上がらずに事業の資金繰りは厳しくなります。いざというときには事業に経営者自らが資金を補填できる状態であれば、事業を継続する能力が高く評価されます。逆に債務の支払いが多いような状態ですと、事業から多くの利益が生じる必要があり、事業を継続する能力について危ぶまれます。

 二つ目は、債務や公共料金などの支払の状況を確認することで、借入した債務を期日にしっかりと返済するしっかりした人であるかを審査します。金融機関は会社の財務状況を逐一確認しているわけにはいかないので、毎月の支払いを滞りなくすることがその会社の状況を確認できる重要な手掛かりになります。支払いに毎月遅れるような人ですと、金融機関としては取引がしづらい人とみなしますし、やはり毎月しっかりと期日までに支払いをする人はしっかりとしていて事業の運営もできる人だ、とみています。

 そこで「経営者の財務状況」についての主な審査ポイント以下のとおりです。

①資産がどの程度か

 資産が多い状態のほうが、事業が軌道にのるまでの期間を乗り越えやすくなるので、事業の継続能力が高いとみなされます。不動産や金融資産などがあれば積極的に開示することで希望通りの融資条件を引き出す期待値があがります。

 またその他の審査ポイントに不安がある場合などには、同意をえられた同居親族の資産状況などを開示するのも有効に働く場合があります。

②負債がどの程度か

 これは①とは逆で、負債などの支払いが沢山ある場合には、事業を早く軌道にのせて、その利益から負債を返済しなければならないとみなされますので、多額の支払いがある場合にはマイナスの評価になりやすくなります。

 よくある負債の支払いは、過去の借入金、住宅ローン、カードローンです。

 ただし、後述しますが、毎月の支払いがしっかりと行われていて、かつ事業の資金繰りを圧迫するほどに多額とみなされなければ気にしすぎることはありません。特に住宅ローンなどは資産価値のあるものに対する負債ですので、マイナスの評価になりづらくなっています。

 また負債を隠したほうがいいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、金融機関は融資の審査にあたり、「個人信用情報」を取得します。

 「個人信用情報」とは、銀行、信用金庫、クレジットカード会社などが加盟して、個人の利用状況や支払い状況を情報として蓄積するシステムです。CICなどが代表的な機関です。

 その機関に記録されている情報については隠匿することはできません。安易に隠すことは、「この人は信用できない。」という印象を与えるだけなのでおすすめできません。

③支払いは期日通りに行われているか

 公共料金、借入金、税金などの支払いを滞りなく、支払っているかが確認されます。これは創業者が信用できる人物であるかが審査されています。

 もしも支払いに遅れがある、あるいは不払いになっているようなものがあると、先述した「個人信用情報」に記録されている可能性があります。

 個人信用情報は本人であればCICなどの機関から取得をすることができます。気になることがあれば、まずは一度、ご自分の信用情報を調べてみてみることをおすすめします。

創業融資の審査ポイント(5)

経営者の能力で重要なポイント ~創業融資の審査ポイント(3)~

 創業融資の審査ポイント(1)でお伝えしたとおり、創業融資の審査ポイントは「事業の収支見込み」「経営者の能力」「経営者の財務状況」の3点に大別できます。ここではそのうち「経営者の能力」について説明します。

  事業の業務経験

 日本政策金融公庫の創業計画では、こちらの欄で創業者の事業経験を確認しています。

日本政策金融公庫 創業計画書の経営者の略歴等

 金融機関の担当者は創業者の創業しようとする事業に関する業務経験をとても重視します。言い換えれば、創業しようとする事業に関りがある業務経験がなければシビアな評価をうけることを覚悟しなければなりません。
 金融機関としては「創業する事業の経験があるほうが事業は成功する確率が高く、未経験の事業はうまくいかない。」という経験則に基づく評価です。
 創業する事業の業務経験が長く、店長や役職でマネジメントの経験がある場合にはより前向きな評価につながるでしょう。
 とはいえ、事業の業務経験が長くなければ全くダメなのか、というと、そういうわけではなりません。


 フランチャイズ加盟店契約でのトレーニングなどはしっかりと事業経験として認められますし、場合によってはアルバイトなども事業経験として認められる場合があります。
 例えば、小売店などを創業しようとする創業者の事業経験として、IT関連の会社での事業経験が長く、創業しようとする事業の業務経験が1年程度だとします。現代はネット上での小売販売はごく一般に行われていますし、店頭販売にしても商品などのネット上での戦略的な広告は極めて重要になっています。ITに強いというのはむしろ強みとして前面に押し出すべき業務経験ということになります。
 重要なのは創業のコンセプトに合致した業務経験を積んでいるのか、ということです。


 これは創業者からすると、創業計画書作成の前段階、つまり自分の事業計画を思案している頃から考えていることが殆どなのかもしれません。つまり事業ありきではなく、自分の経験ならどんな事業ができるか、という発想になります。同じ飲食店を始めるにしても、ずっと和食のお店で厳しい修行をやってきた方と、様々な業務経験の中に飲食店経験がある方では目指すべきお店の方向は異なってしかるべきですし、それにより利益を生み出す仕組みも異なってきます。
 創業計画書作成の前の段階からしっかりと自分の過去を振りかえり、自信をもって自分の業務経験をアピールしていきましょう。

営業や接客をできるか


 創業して間もない創業者は会社のほぼすべてのことを自分でできなくてはなりません。その中には営業や接客もあります。融資審査の面談の場は、金融機関にとっては、創業者と直接対面し、営業や接客をできる人であるかを見極める唯一のチャンスといっていいです。
 業種にふさわしい雰囲気であるか、常識的な態度ができるか、会話のキャッチボールがしっかりとできるかなどがみられています。

事業への覚悟と熱意


  日本政策金融公庫の場合、事業への熱意は創業の動機などに記載された情報を基に評価します。

日本政策金融公庫 創業計画書 創業の動機欄

 3行程度の短い行数ですので、当然それだけではわかることが限られます。そのため融資担当者は、創業者の事業への熱意や経営者としての適性について、口頭での質問などで確認し評価を補足していきます。場合によっては、すこし意地悪な質問をすることもあるかもしれません。


 ここで大切なことは、事業への熱意については、事業を始めるに至った自分の気持ちを伝えることも大切ですが、その事業が事業として成立するという情熱をアピールすることを重視しましょう。
 例えば、高齢者をターゲットにした小売店などを始めるとします。その場合、「高齢者の方々が普段の買い物なので苦労している姿をみて、何かお役に立てないか。」という表現だけで熱意を訴えても足りないでしょう。金融機関はあくまでも融資先の事業が利益を生み出し、そのお金で返済をいただかなければなりません。例えば、ここに「小売店など販売する商品の仕入先が確保できていて、自分には運送会社での宅配ドライバーなどの経験があり、高齢者の方々が欲しいものを欲しい時にお届けする事業が成立可能だと判断したため事業を開始しました。」などと付け加えることができることが大切です。

 「どうしてわざわざ意欲を口頭で丁寧に説明しなければならないのだろう?」と思ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。これまで創業計画書の他の部分で数値や自分の経験などについては細かく説明するわけですし、そもそも意欲がなければ借入までするリスクを冒して創業しないだろう、と。
 私自身もそう思っていました。
 ただ創業融資をうけて創業できたもののすぐに事業が回らなくなってしまい、倒産又は実質休眠状態に陥ってしまう会社は、決して多くはないのですが一定数あります。
 もちろんそこには様々な要因があるのですが、「あれ、どうしてこの人はこの事業を始めてしまったのだろう?」と根本的な意欲に対して疑問を感じてしまう創業者の方々がいらっしゃるのです。むしろ創業融資をうけてすぐに事業が立ちいかなくなるのはこういった精神的な部分が重要だったりします。
 金融機関もそれを理解しています。
 事業が軌道にのるまではかなり厳しいですし、多くの犠牲を払います。あまりに思うようにいかないと逃げ出したくもなるでしょう。精神論になってしまうのですが、そういった過酷な状況を乗り切るためには、やりきるという意思の強さは必要不可欠です。

 論理的思考と計数感覚


 創業者には経営者としての高度な意思決定と利益を生み出すための数字に対する感覚が求められています。自身の商業計画書の内容について、物事の因果関係をふまえ、相手に論理的な説明ができること。また創業計画書に書かれているような数字について、しっかりと根拠をもって説明していくことが重要です。ここでしっかりと好印象を与えることができれば、人物評価としては問題ないでしょう。

 誠実さ

 金融機関は融資にあたり創業者について知るべき情報を正確にかつ素早く把握していかなければなりません。そのためには素直に正しい情報開示をしていく姿勢が求められます。
 また金融機関は個人信用情報を取得し、創業者の債務状況やその支払い状況などについて確認をします。ここで集めた情報について創業者の方に隠匿するような姿勢が疑われると、誠実さという部分についてはかなり厳しい評価をうけるでしょう。

創業融資の審査ポイント(4)

中小企業の最終的な目標、目指すべき場所

 会社を設立する目的は、合法的な節税のためであったり、不動産管理会社の運営のためであったり、実は多くの理由がありますが、殆どの方は自分の事業をより成長させるためではなかろうかと思います。(会社法で言う所の会社には主に株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社の5つが存在していますが、今回は基本的に株式会社に限定してお話させていただきます。)

 「会社を成長させ、安定して経営していくのは当然なのだけれども、最終的にはどこを目指していくべきなのだろう」、税理士事務所で中小企業の法人顧問をさせていただている時、ふと自分自身で疑問に思ってしまったことがあります。それは当然、中小企業の経営者であるお客様の求める結果なのですが、お客様ご自身がそれを模索している最中であることもしばしばです。

 東京商工リサーチの2019年「全国新設法人動向」調査では、

 2019年の新設法人は、13万1,292社(前年12万8,973社)だった。2018年はリーマン・ショック直後の2009年以来、9年ぶりに減少したが、1年で再び増加に転じた。
 2019年の休廃業・解散は4万3,348社、企業倒産は8,383社だった。市場からの退出も多いが、新設法人が市場の新陳代謝を促し、経済活動の活性化の一翼を担っている。

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200529_02.html

 毎年、13万社以上の会社が設立され、それとは逆に5万社以上の会社が休廃業・解散又は倒産しています。

 また同年2019年のJPXの新規上場基本情報のIPOの数をみると、全体で90社のIPOが実現し、上場会社の仲間入りを果たしたことが伺えます。

 これが会社の経営の最終的な結果の統計値ということになります。

 避けなければいけないのは倒産

 言うまでもないことですが、避けなければならないのが倒産です。倒産とは債務超過で事業活動の継続ができなくなってしまった状態を示します。会社の経営者が会社債務の連帯保証人になっていればその負債の弁済義務を負いますし、会社の債務不履行の効果は会社との取引があった様々な取引先に波及し、経営者は信頼を失い、今後の社会的な活動に多くの制約が生じるでしょう。

 では会社の最終的な目標、目指すべき場所とは

 中小企業の最終的な目標、目指すべき場所とは概ね以下の4つではないでしょうか。

①IPOで上場会社の仲間入り

②後継者への事業承継

③売却して換金

④清算して解散

 IPOで上場会社の仲間入り

 会社の業績が狙い通り、又は思いもよらぬほど順調で毎年継続して利益が上げられ、会社の実質的な商売の規模が膨らんでくると、IPOで上場会社の仲間入りということも視野に入ってくるでしょう。(ベンチャー企業の上場に向いている東証マザーズを例として考えると、株主数は200人以上、時価総額10億円以上などが形式的な要件)
 株式上場に至るまではかなり多くの手続きが必要となり、監査法人の監査や証券会社の審査など厳密なチェックがはいりますので、成否にはIPO専門のコンサルタントが欠かせなくなります。

 無事に上場を果たすと株式市場の取引により資金調達がしやすくなり、より大きなビジネスがしやすくなりますが、会社のステークホルダーも飛躍的に増えます。
 従前の会社の経営者は上場した会社でより高度な経営に腕を振るうか、あるいは自分の手持ちの会社株式などを売却するか、など様々な選択肢が与えられます。

 後継者への事業承継

 経営者が育ててきた事業を何らかの形で、その子供や会社の従業員に譲ることで、自らが退くことをいいます。これは長年中小企業を経営してきた社長にとっては大変喜ばしいことではないでしょうか?自分が人生を捧げてきた事業が今後も残された家族や従業員が成長させ、その人々のなかで受け継がれしっかりと生きていくのです。

 事業承継の方法は承継の相手方や事業の実態などにより多岐にわたります。事業単位で譲渡するか、あるいは相続や贈与などで株式を譲るかなどです。税制面はもちろんですが、何よりも事業承継後の会社を円滑に経営するために長い準備期間をもつことが好ましいです。残された経営者が会社の取引や財務の実態などを知らずに会社の経営することになれば混乱は必至ではないでしょうか。

 売却して換金

 近年は中小企業のM&A市場も活発になってきており、上場して会社の株式を市場で売却や後継者のへの会社の譲渡のほかに、経営者が保有する会社の株式を、仲介会社をつうじて売却して換金するというのも現実的な手段になってきました。

 株式の譲渡対価のベースとなるのは企業価値評価です。

 上場会社の場合、企業価値評価は将来と過去の収益力に基づくインカム・アプローチ(DCF法、収益還元法など)、市場の類似した会社の企業価値に基づくマーケット・アプローチ(類似業種比準方式、類似会社比準方式など)、資産の全部または主要な一部を時価換算するコスト・アプローチ(時価純資産価額法、修正簿価純資産法など)のいずれかまたはいくつかの折衷案により、当事者間で譲渡価格を決めていきます。

 ただし中小企業である未上場の企業では株式の市場価値相場からは算出できません。したがって、価格については交渉次第となることがほとんどです。
 交渉の目安として将来の収益に着目するDCF法などを基に算定した収益方式あるいは時価純資産価額法などをベースとした資産方式、あるいはそれらの併用方式が交渉の土台になります。

 株式の売却により経営者は経営から離れることでその後の会社からの利益は期待できませんが、企業価値次第では多額の現金を受け取れる可能性があるとともに、その後との会社経営の諸々のリスクからは解放されます。また会社債務について連帯保証を行っている場合には、金融機関や譲渡先との交渉には慎重になりましょう。

 清算して解散

 会社の清算とは要は会社が存在しなくなることを示しますので、ネガティブな印象を抱きがちですが、そうとは限りません。

 まず整理しておかなければならないのは、会社の倒産と清算はかなり意味がちがうということです。倒産は債務不履行により会社が強制的にそのままの状態では存続できない、もしくは存続しなくなることを意味し、清算とは債務の有無にかかわらず自発的に会社の存続をやめることをいいます。もちろん残った債務の弁済義務を負うことになりますが、倒産とは状況が違うことはわかると思います。

 つまり資産が残った状態での清算もありうるということです。

 何らかの理由で会社の将来の存続が危ぶまれた場合、このまま固定費を払い続けていくことや、事業を継続する諸々のリスクを負担するよりは、清算して会社に蓄積した利益部分を経営者などの株主に還元するというのも現実的な手段のひとつです。
 経営者は還元された金銭などを新しい事業や生活の元手に再出発をすることになります。

 会社の清算の場合、会社に残された資産負債の差額である純資産価額が配当により株主に分配されます。

 まとめ

 中小企業の最終的な目標、目指すべき場所について説明してきました。 

 商売は生き物です。ほんの一瞬で経営環境は様変わりしていきます。

 「当初、上場を目指してきたけれどもなかなかうまくいかずに、お金があるうちに清算してしまおうか」、あるいはその逆に、「期間限定的なビジネスである程度の利益の蓄積ができたら市場が下向く前に清算するつもりが結果的に上場を視野に入れるに至る。」などということも大いにありうるのです。大切なことは、会社の財務状況、経営者の状況、ビジネスの先行きなどを常に整理し、目指すべき方向を適宜定めていく準備です。

 そのための指標となるのが、毎年の決算書の数値であり、毎月の試算表の推移、そしてそれらを基にした現時点での企業価値評価です。結果的に高い企業価値があれば、上場を目指す、安定した事業承継をする、売却して換金するなど、前向きな選択肢を増やすことができます。

 「でも、それって結局は利益を出せってことでしょ?そんなの誰だってわかるよ。」と思われる方も沢山いらっしゃると思います。
 もちろん、利益を出し、それを積み上げることは会社にとって最重要課題です。
 ただし企業価値評価という側面でいうと、それだけではないのです。DCF法などによる将来の「営業利益」を生みだす力も重要な基準のひとつとなります。たとえ現状が厳しくとも、そのビジネスが利益を生み出す力を磨き続け、その将来的な収益力を証明するにたりうる合理的な数値を残すことができれば企業価値はあがります。

 ぜひとも企業価値の向上につとめてください。

事業の収支で見込みの重要ポイント ~創業融資の審査ポイント(2)~

 創業融資の審査ポイント(1)でお伝えしたとおり、創業融資の審査ポイントは「事業の収支見込み」「経営者の能力」「経営者の財務状況」の3点に大別できます。ここではそのうち「事業の収支見込み」について説明します。

 事業の収支見込みは創業計画書の「事業の見通し」又は「収支計画」に記載した情報を中心に、創業計画書全体の内容との整合性を確認しながら、事業の債務返済能力や継続力を融資担当者が判断する極めて重要なポイントです。これまで経理に触れていない創業者が悩むポイントでもあります。

 融資担当者は創業者の出した事業の収支見込について以下のような視点でチェックします。

 ①投資内容と資金調達の妥当性


 投資内容では、事業を始めるにあたり、「どういったものにいくら投資をするのか?」ということを明確にし、その投資が過大ではないか、効果的であるかを判断します。
 まず創業から設備を導入しようとする場合、事前に見積書などをとって資金使途を明らかにします。融資担当者はその上で、その設備が創業時の事業に必要なものなのか、その設備に対する投資額と効果は釣り合うものなのか、明確に利益に貢献する根拠があるのか、という点を判断します。
 例えば、機械設備などで当初からその機械の導入を前提として、メーカーとの取引が決まりつつある場合などには契約書又は見積書などこれまでにやり取りをした記録を提示できればこの条件をクリアできる可能性は高まるでしょう。
 逆に営業所や事務所の内装工事などで利益との貢献度のわかりづらいものについては何故必要かの根拠を融資担当者が納得できるように説明するように注意が必要になります。
 
 資金調達では、創業時に必要な資金をどこから調達するのかという点が判断されます。
 自己資金や金融機関以外からの借入について間違いなく用意ができるのかという点が重視されます。自己資金をどのように貯蓄したのかは、通帳原本のお金の動きで確認されます。直前に突然に数百万が口座に振り込まれている場合などには、「見せ金」と判断されてしまうと自己資金とは認められません。親兄弟からもらったお金などは自己資金として扱われますが、「見せ金」と判断されないためにも、念のために贈与契約書などを用意しておきましょう。

 ②予測収支の実現可能性


 創業計画書の「事業の見通し」又は「収支計画」に記載された予測収支が本当に事業として継続していけるものなのかという点が確認されます。
 日本政策金融公庫の創業計画書には「事業の見通し」という欄はこのようになっています。

 ここに記載された数字が単なる希望的予測で根拠ないものですと、融資審査は厳しいものになるでしょうし、実際の事業運営もすぐに立ち行かなくなる可能性が高いです。
 金融機関が融資した金額の返済の原資は事業から生じる利益です。そのため当然ですが利益がでない、またはその見込みが薄いと判断した計画に融資はできません。そのためにはまず創業計画書に記載する数字の裏付けとなるそもそも「事業が利益み出す仕組み」を固めておかなければなりません。
「事業が利益み出す仕組み」とは、「事業をする場所、商材、その仕入方法、販売先、どれだけの経費が必要になり、最終的にいくら儲けるのか。」ということです。
 それを裏付けるのが。「事業の見通し」又は「収支計画」、「資金繰り」、「財務的根拠」となります。「資金繰り」は必要書類とは別に提出する収支予定表で、「財務的根拠」は創業計画書に別欄がもうけられてそこの記載した情報により判断されますが、収支計画と矛盾があるようなものではいけません。例えば、事業開始時に多額の仕入れや経費が発生するはずなのに、この財務的基盤でどうやって乗り越えるのか、収支計画に記載された内容を実現するにはこの資金繰りではどうやっても資金がショートするのではないか、などです。

 また創業計画書の「事業の見通し」又は「収支計画」に記載した数字はより具体的であると高評価につながります。
 例えば、飲食店を開業する際に、売上高を「客単価4000円で20席あって、一日一回転する。」と予測でつくった場合、融資担当者からは「1回転する根拠を教えてください。」と聞かれる可能性があります。
 また製造業などで機械設備導入のために融資をうける際には、その機械で作った製品を誰が買うのか融資担当者にとっては気になるところです。
 担当者にとって融資を実行してすぐに返済が滞るというのは最も避けたい不安な部分です。その不安を解消するためにも、飲食店など不特定多数のお客様を相手にするような事業については各種統計資料(国勢調査、各市町村が行う人口調査、全国物価統計調査、小売物価統計調査等)を活用し、裏付けのある数字を記載しましょう。製造業などで、いわゆるBtoB、対法人同士の事業の場合には製品の売上先との取引がはじまる根拠については説明できるように準備をしていきましょう。


 最後に融資の返済の原資となる利益は、償却前利益といいます。償却前利益とは、税引き後利益+減価償却費により算出することができます。融資が実行されるためには、この金額が融資額の年間の返済額よりも大きい必要があります。

③資金繰りとの整合性


 ①にも記載しましたが、「事業が利益み出す仕組み」の根拠として、「事業の見通し」又は「収支計画」、「資金繰り」、「財務的根拠」が問われます。「資金繰り」は必要書類とは別に提出する収支予定表で説明することになります。ここで重要なのは投下資金の回収のサイクルです。例えば卸売業などで、棚卸資産を大量に仕入れる場合など、支払サイトに無理がないように条件を整える必要があります。基本的にお金を先に支払って、販売して初めて資金が回収されます。その回収までの期間が長ければ、それだけ多くの資金的なゆとりがなければ事業は成り立ちません。事業の資金繰りが収支や財務的根拠から不自然なものでないことが必要です。

 ④事業の不調時の継続性


 これまでの①~③の条件がクリアできても、実際に創業してみたら、なかなか売上があがらない、思ったよりも安値で売らなければならない、ということはよくあることです。実際、最初から順調に業績を上げられる経営者様はごく僅かといって差し支えないでしょう。こんな場合には、例えば配偶者がマンション経営で不動産所得を得ている又は年金収入があるなどがあれば積極的に開示しておくべきです。

創業融資の審査ポイント(3)

社長の仕事

「社長」
 私がまだ世間のことを知らない学生だった頃、社長という言葉を聞くだけで「きっと自分には想像もできないくらい仕事ができて、凄い人なのだろうな。」ということくらいで、具体的に何が凄いのかまでは深く考えたことなどありませんでした。
 自分自身が2020年9月1日で税理士として開業することができ、晴れて経営者の皆様の列の一番後ろに並ばせてもらうにあたり、経営者の端くれとして、会社の経営者である社長について改めて考えてみたいと思います。

 社長という言葉の定義を調べると、wikipediaにはこのように書いてありました。


 『「社長」とは、一般的には、会社が定める職制において、第三者に対して会社を代表するとともに、会社内部で業務執行を指揮する役職のことである。社長の権限に対する法的根拠を確保するために、一般的には、株式会社では代表取締役若しくは代表執行役を社長として可能な限り業務執行権限を委任し、また持分会社では代表社員(代表社員が法人の場合はその職務執行者)を社長とする。』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E9%95%B7

 つまり一般的には会社法上で会社を代表し、会社の内部を指揮する人ということです。会社という組織の経営者です。

 私が働き始めた頃に比べると、社長という言葉を聞く機会が減ってきたなぁという印象があります。代わりに「代表取締役」(会社法上の正しい職制上の地位)、「CEO」などという表現のバリエーションが増えて一般的になっていったように感じられます

 会社を経営するのが社長の仕事とはいっても、じつに様々なスタイルがあります。
 かつてのライブドアの堀江貴文氏やソフトバンクの孫正義氏のようにM&Aを進めてどんどんメディアに出てくる社長、パナソニックの松下幸之助氏のようにもはや伝説のようになる社長もいます。

 私自身は大学卒業後に、設立したばかりの小企業に勤めましたのでもそもそもキャリアの初めから社長という会社の経営者との距離が近く、叱咤激励(叱咤されるほうがずいぶん多かったのですが。)されながら様々な業務経験を積むことができました。働いている時は悩むこともありましたが、税理士業界にはいってみると、その経験のお陰でずいぶんと助けられることが多かったように思います。
 社長は会社を良くするため、あるいは守るために、常に悩み事を抱えています。そしてその悩み事は、できるだけ早く解決してしまいたい。でもやはりひとりきりでできることには限界があり、それがまた新しい悩みを生んだりするわけです・・・。
 

 私が関わることができたのは中小企業の社長ですが、その考え方や経営の方向性はじつにバラエティに富んでいました。
 いつまでも現場で汗をかいて機械をさわっている社長、現場の外回りで営業から工事の作業まですべて請け負っている社長、現場にはまったく出ないけど上手く会社を経営できる社長もいらっしゃいました。 
 お金の使い方には「消費」「浪費」「投資」「貯蓄」の4種類がありますが、社長は自分の仕事の「投資」(資金だけではなく時間も含めた)のプロです。
 継続して事業を営んでいる社長というのは自分の仕事に対するお金と時間の使い方を熟知しています。これが社長の仕事のセントラルドグマではないでしょうか。それは先天的なセンスによりそなわっていたものかもしれませんし、失敗を繰り返して経験で身に染みた勘なのかもしれません。
 結局のところ、色々な社長がいるようにみえるのも、この投資の方法が違う、あるいはそれぞれの会社の成長の段階が違いで捉える方が物事はクリアになるのではないでしょうか。

 私が事業会社の経理時代、社長に新しい機械の導入を勧めました。事業がうまくいっていたわけです。当時の会社の顧問税理士から勧められていたとおり特別償却による節税効果も期待できます。取引先からも新しい設備投資を求められていました。でも、社長に「時間がかかりすぎる。」と一言でばっさりと片付けられます。自分の仕事を否定されたような恥ずかしい気持ちで一杯でした。

 ですが、社長の言っていたことは正しかったのです。 
 機械は買うだけで利益を生まないわけです。そして購入費用だけでコストは終わらない。そこにいくまでに人を雇い時間をかけて試行錯誤を繰り返して、メンテナンスも必要になる。設置するためには場所も必要になります。安定していつまでも会社が利益を出していければ良いのですがそんなにうまくいくわけはありませんし、安定した販路がなければ本当ところその機械がお金を生むかはわからない。
 投資が無駄になるだけではなく、負の遺産になりかねいのです。設備投資にはそれだけ高度な判断が必要になります。
 今でも時折その苦い経験を思い出しては、自分への教訓にしています。

 私は自分の提案を却下され、自分の至らなさを思い知ったわけですが、結果的にそれが正しかったのではないかと今では思っています。
 社長の仕事とは、様々な情報を自分の知識と経験に基づき、会社にとってふさわしい投資判断を繰り返していくことです。その判断をすることができるのは社長だけで、その投資判断を誤れば会社の存続は危ぶまれます。自分も独立し、今さらではありますが、やはり社長、経営者とは凄いな、と痛感しているところです。

創業融資の審査ポイント(1)

 ここでは創業融資の金融機関が審査するポイントについて総則的なお話をしていきます。
 創業融資は通常の事業に対する融資に比べて、かなり優遇されているといえます。

 まず事業が稼働し始めた実績ではなく、事業の将来性や経営者の資質が審査の基準になります。さらに金融機関もそれに前向きな姿勢で対応してくれます。日本政策金融公庫のように創業者を援助することを目的のひとつとしている政策金融公庫があり、中小企業保証協会は通常の融資の保証を融資額の80%としているところ創業融資については100%保証することで金融機関の積極的に融資を促してくれているのです。
 こういった理由では創業融資は特殊といえますが、やはりあくまでも融資なので創業融資のポイントを知るにあたり、そもそも融資ではどのような点が審査の対象になるのかを簡単に説明していきます。

①通常の融資の評価


 金融機関は融資先を財務内容等に基づき、信用リスクの程度に応じて10段階~15段階程度に区分しており、これが「信用格付け」と呼ばれています。
 ではこの信用格付けがどのように決まるのかというと、金融機関による定量評価と定性評価というものになります。
 定量評価とは決算書の内容のみで銀行が独自の財務スコアリングモデル(決算書採点基準)で評価する手法であり、客観的かつ自動的に行われます。これが格付けの評価の70%から90%を占めると言われます。
 残りの部分を定性評価が占めます。定性評価とは経営者の人柄や能力、その事業の属する業界やその先行きなどを対象としています。定量評価に比べると不確定な部分がおおく、客観的な評価が難しいのがおわかりなるかと推測されます。
 これに加えて、不良債権の有無などの実態調査などにより格付けの基準となる採点を調整しています。
 つまり通常の融資はほとんどの部分が確実な客観的な評価に委ねられるのです。創業融資はこの部分がかなり緩和されてはいますが、客観的な評価というものが極めて重要であることはおわかりになるかと思われます。

②創業融資の審査ポイント

 創業融資の審査ポイントは「事業の収支見込み」「経営者の能力」「経営者の財務状況」の3点にまとめることができます。


「事業の収支見込み」


 事業の収支見込みとは、創業した事業が利益をしっかりとあげて、継続し、融資金を返済できる見込みのことです。創業融資では日本政策金融公庫及び制度融資では創業計画書の中で、「事業の見通し」又は「収支計画」という欄があり、そこに記載された情報を基に審査されます。ここに記載する情報は、売上、売上原価、経費などの予測です。しっかりと利益のあがる計画を記載するのはもちろんですが、できるだけ客観的な根拠を持ってその裏付けを説明できるようにしていかなければなりません。
 おそらく経費部分の根拠づけはこれだけの情報化社会なので根拠を持って説明することができるでしょう。問題は売上や売上原価です。販売先や仕入先があらかじめ確定していて、その契約書や見積書などを持参できるのが理想ですが、なかなかそうもいかないのが現実です。その場合にはやはり工夫が必要になります。自分の収支の見込みについては、見込みといえども、可能な限り根拠と具体性もって説明できように準備をしましょう。

「経営者の能力」


 経営者の能力とはその事業を運営できる能力であり、その事業の経験や知識はもちろんですが、サラリーマンではなく経営者としてのマネジメントや論理的思考ができるかという能力です。またとても基礎的なことですが、一般的な常識があり信頼できる人物であるかということもみられます。創業した社長は、少人数または一人で会社を運営せざるをえません。その中には営業や接客も含まれますので、常識的な振る舞いができるかどうか、しっかりとお金を返済してくれる信頼できる人間なのか、という点も審査の対象です。

「経営者の財務状況」

 経営者の財務状況とは、経営者の資産と債務の状況といってよいです。創業してすぐに利益がでて、資金繰りも良好という会社はほとんどありません。赤字続きで、資金調達に苦労する経営者が沢山いらっしゃいます。そういった状況の中で、経営者にすでに負債があり、毎月多額の返済をしているような状態ですと、当然ですが事業の継続性が危ぶまれます。またその逆に資産に余裕があるような状態ですと、厳しい状況を乗り越えられる期待値があがりますので高評価にとらえられます。

 

 融資で満足のいく結果をえるためには、この3点ついて客観的な根拠をもって説明していくことを考慮にいれていくことがよい結果につながります。

創業融資の審査ポイント(2)