社長の仕事

「社長」
 私がまだ世間のことを知らない学生だった頃、社長という言葉を聞くだけで「きっと自分には想像もできないくらい仕事ができて、凄い人なのだろうな。」ということくらいで、具体的に何が凄いのかまでは深く考えたことなどありませんでした。
 自分自身が2020年9月1日で税理士として開業することができ、晴れて経営者の皆様の列の一番後ろに並ばせてもらうにあたり、経営者の端くれとして、会社の経営者である社長について改めて考えてみたいと思います。

 社長という言葉の定義を調べると、wikipediaにはこのように書いてありました。


 『「社長」とは、一般的には、会社が定める職制において、第三者に対して会社を代表するとともに、会社内部で業務執行を指揮する役職のことである。社長の権限に対する法的根拠を確保するために、一般的には、株式会社では代表取締役若しくは代表執行役を社長として可能な限り業務執行権限を委任し、また持分会社では代表社員(代表社員が法人の場合はその職務執行者)を社長とする。』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E9%95%B7

 つまり一般的には会社法上で会社を代表し、会社の内部を指揮する人ということです。会社という組織の経営者です。

 私が働き始めた頃に比べると、社長という言葉を聞く機会が減ってきたなぁという印象があります。代わりに「代表取締役」(会社法上の正しい職制上の地位)、「CEO」などという表現のバリエーションが増えて一般的になっていったように感じられます

 会社を経営するのが社長の仕事とはいっても、じつに様々なスタイルがあります。
 かつてのライブドアの堀江貴文氏やソフトバンクの孫正義氏のようにM&Aを進めてどんどんメディアに出てくる社長、パナソニックの松下幸之助氏のようにもはや伝説のようになる社長もいます。

 私自身は大学卒業後に、設立したばかりの小企業に勤めましたのでもそもそもキャリアの初めから社長という会社の経営者との距離が近く、叱咤激励(叱咤されるほうがずいぶん多かったのですが。)されながら様々な業務経験を積むことができました。働いている時は悩むこともありましたが、税理士業界にはいってみると、その経験のお陰でずいぶんと助けられることが多かったように思います。
 社長は会社を良くするため、あるいは守るために、常に悩み事を抱えています。そしてその悩み事は、できるだけ早く解決してしまいたい。でもやはりひとりきりでできることには限界があり、それがまた新しい悩みを生んだりするわけです・・・。
 

 私が関わることができたのは中小企業の社長ですが、その考え方や経営の方向性はじつにバラエティに富んでいました。
 いつまでも現場で汗をかいて機械をさわっている社長、現場の外回りで営業から工事の作業まですべて請け負っている社長、現場にはまったく出ないけど上手く会社を経営できる社長もいらっしゃいました。 
 お金の使い方には「消費」「浪費」「投資」「貯蓄」の4種類がありますが、社長は自分の仕事の「投資」(資金だけではなく時間も含めた)のプロです。
 継続して事業を営んでいる社長というのは自分の仕事に対するお金と時間の使い方を熟知しています。これが社長の仕事のセントラルドグマではないでしょうか。それは先天的なセンスによりそなわっていたものかもしれませんし、失敗を繰り返して経験で身に染みた勘なのかもしれません。
 結局のところ、色々な社長がいるようにみえるのも、この投資の方法が違う、あるいはそれぞれの会社の成長の段階が違いで捉える方が物事はクリアになるのではないでしょうか。

 私が事業会社の経理時代、社長に新しい機械の導入を勧めました。事業がうまくいっていたわけです。当時の会社の顧問税理士から勧められていたとおり特別償却による節税効果も期待できます。取引先からも新しい設備投資を求められていました。でも、社長に「時間がかかりすぎる。」と一言でばっさりと片付けられます。自分の仕事を否定されたような恥ずかしい気持ちで一杯でした。

 ですが、社長の言っていたことは正しかったのです。 
 機械は買うだけで利益を生まないわけです。そして購入費用だけでコストは終わらない。そこにいくまでに人を雇い時間をかけて試行錯誤を繰り返して、メンテナンスも必要になる。設置するためには場所も必要になります。安定していつまでも会社が利益を出していければ良いのですがそんなにうまくいくわけはありませんし、安定した販路がなければ本当ところその機械がお金を生むかはわからない。
 投資が無駄になるだけではなく、負の遺産になりかねいのです。設備投資にはそれだけ高度な判断が必要になります。
 今でも時折その苦い経験を思い出しては、自分への教訓にしています。

 私は自分の提案を却下され、自分の至らなさを思い知ったわけですが、結果的にそれが正しかったのではないかと今では思っています。
 社長の仕事とは、様々な情報を自分の知識と経験に基づき、会社にとってふさわしい投資判断を繰り返していくことです。その判断をすることができるのは社長だけで、その投資判断を誤れば会社の存続は危ぶまれます。自分も独立し、今さらではありますが、やはり社長、経営者とは凄いな、と痛感しているところです。