法人成りのメリット・デメリット

これから事業を始めようと思っている方、あるいは事業を営んでいる方で個人事業主として営んでいくか、法人化すべきか悩んでいる方は多いのではないでしょうか?

個人事業主としてか法人として事業をしていくかどちらが有利なのかとても気になりますよね。

もちろん、個人事業主と法人でどちらが有利なのかは事業の規模や売上、事業を営んでいる本人の状況によって変わってきますが、今回は、法人成りのメリット・デメリットについてみていきたいと思います。

法人成りのメリット

①役員報酬を経費として費用計上できる

社長もしくは個人事業主が会社から給与を受け取っている場合の会計処理が法人と個人事業主では異なります。

個人事業主であっても、毎月事業のお金から給与(生活費)として引出している場合も多いかと思いますが、その生活費として引出した現金は経費として計上することができません。

一方、法人から社長が役員報酬として毎月一定額を支給されていた場合、役員報酬として支払った金額を費用として計上することができます。

個人事業主も法人も「収入-費用=所得」という考え方は同じなので、所得が少ないほど納める税額も少なくなります。そして、法人は役員報酬を費用の金額に加えることができます。

ただし、役員報酬というのは、規制が多く、毎期の会計期間開始の日から3ヶ月以内でないと役員報酬の金額を変更することはできません。毎期の会計期間開始の日から3カ月以内に決めた報酬の額を少なくとも1年間は継続して支給することになります。毎月の利益に応じて役員報酬を変更することはできません。そして、役員に毎月の金額にプラスして賞与を支給したい場合は会計期間開始の日から3カ月以内に届出を提出する必要があります。【役員報酬は変えられない!!

また、毎期の会計期間開始の日から3カ月以内に決めた役員報酬よりも多くの金額を支給しても、決めた金額を超える部分については費用として計上することはできません。

このように色々な規制はありますが、役員報酬は金額が大きくなることも多く、法人成りすることによって役員報酬を費用として計上することができれば、大きな節税効果が期待できます。

②役員報酬と個人事業主の事業所得の所得控除額の違い

先ほど役員報酬と個人事業主への給与では、費用計上できるかどうかに違いがあると言いましたが、役員報酬として会社から報酬をもらう場合と個人事業主が事業の利益を得る場合では、所得控除される金額も違ってきます。

(所得控除とは、所得税の計算をするときに、所得から一定の金額を差引くことをいい、所得控除が多くなるほど、所得金額が減額されるため節税効果が高いといえます。)

法人が役員報酬を支給すると役員(社長)は最大で195万円の所得控除を受けることができます。

(給与所得控除は、支給される給与等の額によって異なりますので、ご注意ください)

一方で、個人事業主の所得(事業の利益)の場合は、青色申告特別控除の65万円までの所得控除しか認められていません。

事業が成長しており、利益も充分に出ている企業の場合には、法人として会社を設立して、役員報酬として社長へ給与を支給し、役員報酬として支給した費用を経費として計上しつつ、役員報酬として給与を得た社長自身は、給与所得控除を有効に活用し所得の金額を抑えるという節税も効果が高いと考えられます。

③事業の赤字を繰り越しすることができる

事業の利益が赤字だった場合の赤字の繰越について個人事業主と法人とで考え方が大きく違ってきます。

法人は利益が赤字になった場合、その赤字を10年間繰り越すことができます。

1年目で100万円の赤字が出た場合、1年目の法人税がかからないということに加えて、2年目に赤字を繰り越すことができます。そのため、2年目に100万円の利益があった場合でも、1年目の赤字と相殺して利益が0円ということになります。また、赤字を繰り越せる期間は10年間で、利益が出た場合は過去の赤字の金額から相殺されます。

一方、個人事業主の場合は、事業所得と給与所得等や不動産所得等の所得を合算して所得金額を計算し、所得税の金額を算出しますが、個人事業主の合計所得金額が赤字もしくは、事業所得は赤字が出ているなどの場合でも、赤字(損失)を翌年に繰り越すことはできません。

①の役員報酬の費用計上と合わせてこちらも、法人成りによって大きな節税効果が期待できます。

④社会的な信用度が上がる

①・②は税金の面で大きなメリットを見ていきました。法人成りすることで会計的なメリットも多いですが、社会的な信用度が上がるという面もあります。

法人成りすることによって、法人名義のクレジットカードや銀行口座を作ることができるようになります。また、融資が受けやすくなったり、仕事を受注するときも法人の方がしっかりとした印象になったりします。

このように、法人成りすることで社会的な信用が上がり、より事業を拡大していきたいという場合には有利だと考えられます。

法人成りのデメリット

①法人の設立には費用が掛かる

個人事業主として事業を開始する場合には、基本的に税務署に開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を提出するだけです。

しかし、法人を設立する場合には、登記をしたり定款を作成して認証を受けたりと様々な作業が発生し、それにともなって費用もかかってきます。登記費用だけで、おおよそで20~30万円ほどで、さらに税理士や司法書士などへ依頼した場合はそれらの士業への報酬も追加でかかります。

事業を始めたばかりで資金的にあまり余裕がないという場合には、この設立費用も負担が大きくなるでしょう。

②法人住民税の均等割がかかるようになる

法人の場合は、住民税均等割として毎年、7万円前後(県・市区町村によって金額は異なります)を納付する必要があります。

この法人住民税の均等割は、事業の利益が赤字であっても納付しなければなりません。

③社会保険料の納付義務がある

個人事業主の場合は、従業員が5名以下の場合は会社として社会保険料を納付する義務はなく、その場合は従業員がそれぞれに個人年金や国民健康保険を支払います。

一方、法人は社員が役員の社長1人だけであった場合でも会社が社会保険料を納付する義務を負います。納付する社会保険料は、従業員と会社で半分ずつ負担することになっています。

また、一般的に個人で納付する国民健康保険と個人年金の金額よりも会社で納付する従業員一人当たりの社会保険の方が納付金額が高くなります。

このように、法人成りすることによって、役員や従業員の社会保険料の半分を会社で負担する必要があるため、こちらも法人成りのデメリットと言えるでしょう。

(会社が負担した分の社会保険料は、経費として費用計上することができます。)

④様々な手続や申請があり事務作業が煩雑になる

これは、③とも関係しているのですが、会社が社会保険を納付する場合は、届出なども必要となりますし、様々なメリットを受けられるようになる一方で、設立の登記や定款の作成、議事録の作成など、提出する届出や書類が多くなってきます。また、個人事業主以上に正確な会計処理や帳簿の作成なども必要になってくるため、1人だけで事業をしている場合はこれらの事務負担はかなり負担になってくると考えられます。

個人事業と法人の相違点(おまけ)

法人成りのメリット・デメリットをみてきましたが、最後に個人事業と法人の会計期間に違いを見ていきたいと思います。

まず、個人事業主の会計期間は1月1日~12月31日までで、申告・納付の期限は会計期間の翌年3月15日までです。個人事業主は、事業の利益を所得税として申告するので、一般的な確定申告の期限が申告・納付の期限となります。

一方で法人の会計期間は、任意で決めることができます。会社の設立をするときに社長が自由に会計期間を決めることができます。ただし、設立したときに決めた会計期間は原則として毎期継続して適用しなくてはいけません。会計期間を変更する場合は届出が必要となります。

また、法人の申告・納付の期限は決算日から2ヶ月以内と決められています。

4月末が決算日だった場合、2か月後の6月末が申告期限となります。

法人の決算が12月31日だった場合は、2月末が申告の期限となります。個人の所得税のように3月15日までの期限ではないのでご注意ください。

まとめ

今回は、法人成りのメリット・デメリットについて見ていきました。

はじめに述べたように、それぞれの事業の状況によって法人成りするべきかの判断はことなりますが、今回の記事がその判断の参考になれば幸いです。

また、法人成りの判定や実際に法人成りをしていく手続き、法人としての会計処理や申告などはとても複雑で、判断に迷うことも多いです。

特に、事業を始めたばかりの場合は、金銭的にも事務作業的にも法人成りが大きな負担となることも多いです。ある程度、事業が落ち着いてきた、もしくは売上が安定してきた段階で法人成りするのも良いと思います。

事業を始めようとしている、事業を始めているあるいは事業が安定してきて法人成りを検討しているという場合には、事前に会計事務所などで相談をしてみてはいかがでしょうか?