年: 2020年

中小企業の最終的な目標、目指すべき場所

 会社を設立する目的は、合法的な節税のためであったり、不動産管理会社の運営のためであったり、実は多くの理由がありますが、殆どの方は自分の事業をより成長させるためではなかろうかと思います。(会社法で言う所の会社には主に株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社の5つが存在していますが、今回は基本的に株式会社に限定してお話させていただきます。)

 「会社を成長させ、安定して経営していくのは当然なのだけれども、最終的にはどこを目指していくべきなのだろう」、税理士事務所で中小企業の法人顧問をさせていただている時、ふと自分自身で疑問に思ってしまったことがあります。それは当然、中小企業の経営者であるお客様の求める結果なのですが、お客様ご自身がそれを模索している最中であることもしばしばです。

 東京商工リサーチの2019年「全国新設法人動向」調査では、

 2019年の新設法人は、13万1,292社(前年12万8,973社)だった。2018年はリーマン・ショック直後の2009年以来、9年ぶりに減少したが、1年で再び増加に転じた。
 2019年の休廃業・解散は4万3,348社、企業倒産は8,383社だった。市場からの退出も多いが、新設法人が市場の新陳代謝を促し、経済活動の活性化の一翼を担っている。

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200529_02.html

 毎年、13万社以上の会社が設立され、それとは逆に5万社以上の会社が休廃業・解散又は倒産しています。

 また同年2019年のJPXの新規上場基本情報のIPOの数をみると、全体で90社のIPOが実現し、上場会社の仲間入りを果たしたことが伺えます。

 これが会社の経営の最終的な結果の統計値ということになります。

 避けなければいけないのは倒産

 言うまでもないことですが、避けなければならないのが倒産です。倒産とは債務超過で事業活動の継続ができなくなってしまった状態を示します。会社の経営者が会社債務の連帯保証人になっていればその負債の弁済義務を負いますし、会社の債務不履行の効果は会社との取引があった様々な取引先に波及し、経営者は信頼を失い、今後の社会的な活動に多くの制約が生じるでしょう。

 では会社の最終的な目標、目指すべき場所とは

 中小企業の最終的な目標、目指すべき場所とは概ね以下の4つではないでしょうか。

①IPOで上場会社の仲間入り

②後継者への事業承継

③売却して換金

④清算して解散

 IPOで上場会社の仲間入り

 会社の業績が狙い通り、又は思いもよらぬほど順調で毎年継続して利益が上げられ、会社の実質的な商売の規模が膨らんでくると、IPOで上場会社の仲間入りということも視野に入ってくるでしょう。(ベンチャー企業の上場に向いている東証マザーズを例として考えると、株主数は200人以上、時価総額10億円以上などが形式的な要件)
 株式上場に至るまではかなり多くの手続きが必要となり、監査法人の監査や証券会社の審査など厳密なチェックがはいりますので、成否にはIPO専門のコンサルタントが欠かせなくなります。

 無事に上場を果たすと株式市場の取引により資金調達がしやすくなり、より大きなビジネスがしやすくなりますが、会社のステークホルダーも飛躍的に増えます。
 従前の会社の経営者は上場した会社でより高度な経営に腕を振るうか、あるいは自分の手持ちの会社株式などを売却するか、など様々な選択肢が与えられます。

 後継者への事業承継

 経営者が育ててきた事業を何らかの形で、その子供や会社の従業員に譲ることで、自らが退くことをいいます。これは長年中小企業を経営してきた社長にとっては大変喜ばしいことではないでしょうか?自分が人生を捧げてきた事業が今後も残された家族や従業員が成長させ、その人々のなかで受け継がれしっかりと生きていくのです。

 事業承継の方法は承継の相手方や事業の実態などにより多岐にわたります。事業単位で譲渡するか、あるいは相続や贈与などで株式を譲るかなどです。税制面はもちろんですが、何よりも事業承継後の会社を円滑に経営するために長い準備期間をもつことが好ましいです。残された経営者が会社の取引や財務の実態などを知らずに会社の経営することになれば混乱は必至ではないでしょうか。

 売却して換金

 近年は中小企業のM&A市場も活発になってきており、上場して会社の株式を市場で売却や後継者のへの会社の譲渡のほかに、経営者が保有する会社の株式を、仲介会社をつうじて売却して換金するというのも現実的な手段になってきました。

 株式の譲渡対価のベースとなるのは企業価値評価です。

 上場会社の場合、企業価値評価は将来と過去の収益力に基づくインカム・アプローチ(DCF法、収益還元法など)、市場の類似した会社の企業価値に基づくマーケット・アプローチ(類似業種比準方式、類似会社比準方式など)、資産の全部または主要な一部を時価換算するコスト・アプローチ(時価純資産価額法、修正簿価純資産法など)のいずれかまたはいくつかの折衷案により、当事者間で譲渡価格を決めていきます。

 ただし中小企業である未上場の企業では株式の市場価値相場からは算出できません。したがって、価格については交渉次第となることがほとんどです。
 交渉の目安として将来の収益に着目するDCF法などを基に算定した収益方式あるいは時価純資産価額法などをベースとした資産方式、あるいはそれらの併用方式が交渉の土台になります。

 株式の売却により経営者は経営から離れることでその後の会社からの利益は期待できませんが、企業価値次第では多額の現金を受け取れる可能性があるとともに、その後との会社経営の諸々のリスクからは解放されます。また会社債務について連帯保証を行っている場合には、金融機関や譲渡先との交渉には慎重になりましょう。

 清算して解散

 会社の清算とは要は会社が存在しなくなることを示しますので、ネガティブな印象を抱きがちですが、そうとは限りません。

 まず整理しておかなければならないのは、会社の倒産と清算はかなり意味がちがうということです。倒産は債務不履行により会社が強制的にそのままの状態では存続できない、もしくは存続しなくなることを意味し、清算とは債務の有無にかかわらず自発的に会社の存続をやめることをいいます。もちろん残った債務の弁済義務を負うことになりますが、倒産とは状況が違うことはわかると思います。

 つまり資産が残った状態での清算もありうるということです。

 何らかの理由で会社の将来の存続が危ぶまれた場合、このまま固定費を払い続けていくことや、事業を継続する諸々のリスクを負担するよりは、清算して会社に蓄積した利益部分を経営者などの株主に還元するというのも現実的な手段のひとつです。
 経営者は還元された金銭などを新しい事業や生活の元手に再出発をすることになります。

 会社の清算の場合、会社に残された資産負債の差額である純資産価額が配当により株主に分配されます。

 まとめ

 中小企業の最終的な目標、目指すべき場所について説明してきました。 

 商売は生き物です。ほんの一瞬で経営環境は様変わりしていきます。

 「当初、上場を目指してきたけれどもなかなかうまくいかずに、お金があるうちに清算してしまおうか」、あるいはその逆に、「期間限定的なビジネスである程度の利益の蓄積ができたら市場が下向く前に清算するつもりが結果的に上場を視野に入れるに至る。」などということも大いにありうるのです。大切なことは、会社の財務状況、経営者の状況、ビジネスの先行きなどを常に整理し、目指すべき方向を適宜定めていく準備です。

 そのための指標となるのが、毎年の決算書の数値であり、毎月の試算表の推移、そしてそれらを基にした現時点での企業価値評価です。結果的に高い企業価値があれば、上場を目指す、安定した事業承継をする、売却して換金するなど、前向きな選択肢を増やすことができます。

 「でも、それって結局は利益を出せってことでしょ?そんなの誰だってわかるよ。」と思われる方も沢山いらっしゃると思います。
 もちろん、利益を出し、それを積み上げることは会社にとって最重要課題です。
 ただし企業価値評価という側面でいうと、それだけではないのです。DCF法などによる将来の「営業利益」を生みだす力も重要な基準のひとつとなります。たとえ現状が厳しくとも、そのビジネスが利益を生み出す力を磨き続け、その将来的な収益力を証明するにたりうる合理的な数値を残すことができれば企業価値はあがります。

 ぜひとも企業価値の向上につとめてください。

事業の収支で見込みの重要ポイント ~創業融資の審査ポイント(2)~

 創業融資の審査ポイント(1)でお伝えしたとおり、創業融資の審査ポイントは「事業の収支見込み」「経営者の能力」「経営者の財務状況」の3点に大別できます。ここではそのうち「事業の収支見込み」について説明します。

 事業の収支見込みは創業計画書の「事業の見通し」又は「収支計画」に記載した情報を中心に、創業計画書全体の内容との整合性を確認しながら、事業の債務返済能力や継続力を融資担当者が判断する極めて重要なポイントです。これまで経理に触れていない創業者が悩むポイントでもあります。

 融資担当者は創業者の出した事業の収支見込について以下のような視点でチェックします。

 ①投資内容と資金調達の妥当性


 投資内容では、事業を始めるにあたり、「どういったものにいくら投資をするのか?」ということを明確にし、その投資が過大ではないか、効果的であるかを判断します。
 まず創業から設備を導入しようとする場合、事前に見積書などをとって資金使途を明らかにします。融資担当者はその上で、その設備が創業時の事業に必要なものなのか、その設備に対する投資額と効果は釣り合うものなのか、明確に利益に貢献する根拠があるのか、という点を判断します。
 例えば、機械設備などで当初からその機械の導入を前提として、メーカーとの取引が決まりつつある場合などには契約書又は見積書などこれまでにやり取りをした記録を提示できればこの条件をクリアできる可能性は高まるでしょう。
 逆に営業所や事務所の内装工事などで利益との貢献度のわかりづらいものについては何故必要かの根拠を融資担当者が納得できるように説明するように注意が必要になります。
 
 資金調達では、創業時に必要な資金をどこから調達するのかという点が判断されます。
 自己資金や金融機関以外からの借入について間違いなく用意ができるのかという点が重視されます。自己資金をどのように貯蓄したのかは、通帳原本のお金の動きで確認されます。直前に突然に数百万が口座に振り込まれている場合などには、「見せ金」と判断されてしまうと自己資金とは認められません。親兄弟からもらったお金などは自己資金として扱われますが、「見せ金」と判断されないためにも、念のために贈与契約書などを用意しておきましょう。

 ②予測収支の実現可能性


 創業計画書の「事業の見通し」又は「収支計画」に記載された予測収支が本当に事業として継続していけるものなのかという点が確認されます。
 日本政策金融公庫の創業計画書には「事業の見通し」という欄はこのようになっています。

 ここに記載された数字が単なる希望的予測で根拠ないものですと、融資審査は厳しいものになるでしょうし、実際の事業運営もすぐに立ち行かなくなる可能性が高いです。
 金融機関が融資した金額の返済の原資は事業から生じる利益です。そのため当然ですが利益がでない、またはその見込みが薄いと判断した計画に融資はできません。そのためにはまず創業計画書に記載する数字の裏付けとなるそもそも「事業が利益み出す仕組み」を固めておかなければなりません。
「事業が利益み出す仕組み」とは、「事業をする場所、商材、その仕入方法、販売先、どれだけの経費が必要になり、最終的にいくら儲けるのか。」ということです。
 それを裏付けるのが。「事業の見通し」又は「収支計画」、「資金繰り」、「財務的根拠」となります。「資金繰り」は必要書類とは別に提出する収支予定表で、「財務的根拠」は創業計画書に別欄がもうけられてそこの記載した情報により判断されますが、収支計画と矛盾があるようなものではいけません。例えば、事業開始時に多額の仕入れや経費が発生するはずなのに、この財務的基盤でどうやって乗り越えるのか、収支計画に記載された内容を実現するにはこの資金繰りではどうやっても資金がショートするのではないか、などです。

 また創業計画書の「事業の見通し」又は「収支計画」に記載した数字はより具体的であると高評価につながります。
 例えば、飲食店を開業する際に、売上高を「客単価4000円で20席あって、一日一回転する。」と予測でつくった場合、融資担当者からは「1回転する根拠を教えてください。」と聞かれる可能性があります。
 また製造業などで機械設備導入のために融資をうける際には、その機械で作った製品を誰が買うのか融資担当者にとっては気になるところです。
 担当者にとって融資を実行してすぐに返済が滞るというのは最も避けたい不安な部分です。その不安を解消するためにも、飲食店など不特定多数のお客様を相手にするような事業については各種統計資料(国勢調査、各市町村が行う人口調査、全国物価統計調査、小売物価統計調査等)を活用し、裏付けのある数字を記載しましょう。製造業などで、いわゆるBtoB、対法人同士の事業の場合には製品の売上先との取引がはじまる根拠については説明できるように準備をしていきましょう。


 最後に融資の返済の原資となる利益は、償却前利益といいます。償却前利益とは、税引き後利益+減価償却費により算出することができます。融資が実行されるためには、この金額が融資額の年間の返済額よりも大きい必要があります。

③資金繰りとの整合性


 ①にも記載しましたが、「事業が利益み出す仕組み」の根拠として、「事業の見通し」又は「収支計画」、「資金繰り」、「財務的根拠」が問われます。「資金繰り」は必要書類とは別に提出する収支予定表で説明することになります。ここで重要なのは投下資金の回収のサイクルです。例えば卸売業などで、棚卸資産を大量に仕入れる場合など、支払サイトに無理がないように条件を整える必要があります。基本的にお金を先に支払って、販売して初めて資金が回収されます。その回収までの期間が長ければ、それだけ多くの資金的なゆとりがなければ事業は成り立ちません。事業の資金繰りが収支や財務的根拠から不自然なものでないことが必要です。

 ④事業の不調時の継続性


 これまでの①~③の条件がクリアできても、実際に創業してみたら、なかなか売上があがらない、思ったよりも安値で売らなければならない、ということはよくあることです。実際、最初から順調に業績を上げられる経営者様はごく僅かといって差し支えないでしょう。こんな場合には、例えば配偶者がマンション経営で不動産所得を得ている又は年金収入があるなどがあれば積極的に開示しておくべきです。

創業融資の審査ポイント(3)

社長の仕事

「社長」
 私がまだ世間のことを知らない学生だった頃、社長という言葉を聞くだけで「きっと自分には想像もできないくらい仕事ができて、凄い人なのだろうな。」ということくらいで、具体的に何が凄いのかまでは深く考えたことなどありませんでした。
 自分自身が2020年9月1日で税理士として開業することができ、晴れて経営者の皆様の列の一番後ろに並ばせてもらうにあたり、経営者の端くれとして、会社の経営者である社長について改めて考えてみたいと思います。

 社長という言葉の定義を調べると、wikipediaにはこのように書いてありました。


 『「社長」とは、一般的には、会社が定める職制において、第三者に対して会社を代表するとともに、会社内部で業務執行を指揮する役職のことである。社長の権限に対する法的根拠を確保するために、一般的には、株式会社では代表取締役若しくは代表執行役を社長として可能な限り業務執行権限を委任し、また持分会社では代表社員(代表社員が法人の場合はその職務執行者)を社長とする。』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E9%95%B7

 つまり一般的には会社法上で会社を代表し、会社の内部を指揮する人ということです。会社という組織の経営者です。

 私が働き始めた頃に比べると、社長という言葉を聞く機会が減ってきたなぁという印象があります。代わりに「代表取締役」(会社法上の正しい職制上の地位)、「CEO」などという表現のバリエーションが増えて一般的になっていったように感じられます

 会社を経営するのが社長の仕事とはいっても、じつに様々なスタイルがあります。
 かつてのライブドアの堀江貴文氏やソフトバンクの孫正義氏のようにM&Aを進めてどんどんメディアに出てくる社長、パナソニックの松下幸之助氏のようにもはや伝説のようになる社長もいます。

 私自身は大学卒業後に、設立したばかりの小企業に勤めましたのでもそもそもキャリアの初めから社長という会社の経営者との距離が近く、叱咤激励(叱咤されるほうがずいぶん多かったのですが。)されながら様々な業務経験を積むことができました。働いている時は悩むこともありましたが、税理士業界にはいってみると、その経験のお陰でずいぶんと助けられることが多かったように思います。
 社長は会社を良くするため、あるいは守るために、常に悩み事を抱えています。そしてその悩み事は、できるだけ早く解決してしまいたい。でもやはりひとりきりでできることには限界があり、それがまた新しい悩みを生んだりするわけです・・・。
 

 私が関わることができたのは中小企業の社長ですが、その考え方や経営の方向性はじつにバラエティに富んでいました。
 いつまでも現場で汗をかいて機械をさわっている社長、現場の外回りで営業から工事の作業まですべて請け負っている社長、現場にはまったく出ないけど上手く会社を経営できる社長もいらっしゃいました。 
 お金の使い方には「消費」「浪費」「投資」「貯蓄」の4種類がありますが、社長は自分の仕事の「投資」(資金だけではなく時間も含めた)のプロです。
 継続して事業を営んでいる社長というのは自分の仕事に対するお金と時間の使い方を熟知しています。これが社長の仕事のセントラルドグマではないでしょうか。それは先天的なセンスによりそなわっていたものかもしれませんし、失敗を繰り返して経験で身に染みた勘なのかもしれません。
 結局のところ、色々な社長がいるようにみえるのも、この投資の方法が違う、あるいはそれぞれの会社の成長の段階が違いで捉える方が物事はクリアになるのではないでしょうか。

 私が事業会社の経理時代、社長に新しい機械の導入を勧めました。事業がうまくいっていたわけです。当時の会社の顧問税理士から勧められていたとおり特別償却による節税効果も期待できます。取引先からも新しい設備投資を求められていました。でも、社長に「時間がかかりすぎる。」と一言でばっさりと片付けられます。自分の仕事を否定されたような恥ずかしい気持ちで一杯でした。

 ですが、社長の言っていたことは正しかったのです。 
 機械は買うだけで利益を生まないわけです。そして購入費用だけでコストは終わらない。そこにいくまでに人を雇い時間をかけて試行錯誤を繰り返して、メンテナンスも必要になる。設置するためには場所も必要になります。安定していつまでも会社が利益を出していければ良いのですがそんなにうまくいくわけはありませんし、安定した販路がなければ本当ところその機械がお金を生むかはわからない。
 投資が無駄になるだけではなく、負の遺産になりかねいのです。設備投資にはそれだけ高度な判断が必要になります。
 今でも時折その苦い経験を思い出しては、自分への教訓にしています。

 私は自分の提案を却下され、自分の至らなさを思い知ったわけですが、結果的にそれが正しかったのではないかと今では思っています。
 社長の仕事とは、様々な情報を自分の知識と経験に基づき、会社にとってふさわしい投資判断を繰り返していくことです。その判断をすることができるのは社長だけで、その投資判断を誤れば会社の存続は危ぶまれます。自分も独立し、今さらではありますが、やはり社長、経営者とは凄いな、と痛感しているところです。

創業融資の審査ポイント(1)

 ここでは創業融資の金融機関が審査するポイントについて総則的なお話をしていきます。
 創業融資は通常の事業に対する融資に比べて、かなり優遇されているといえます。

 まず事業が稼働し始めた実績ではなく、事業の将来性や経営者の資質が審査の基準になります。さらに金融機関もそれに前向きな姿勢で対応してくれます。日本政策金融公庫のように創業者を援助することを目的のひとつとしている政策金融公庫があり、中小企業保証協会は通常の融資の保証を融資額の80%としているところ創業融資については100%保証することで金融機関の積極的に融資を促してくれているのです。
 こういった理由では創業融資は特殊といえますが、やはりあくまでも融資なので創業融資のポイントを知るにあたり、そもそも融資ではどのような点が審査の対象になるのかを簡単に説明していきます。

①通常の融資の評価


 金融機関は融資先を財務内容等に基づき、信用リスクの程度に応じて10段階~15段階程度に区分しており、これが「信用格付け」と呼ばれています。
 ではこの信用格付けがどのように決まるのかというと、金融機関による定量評価と定性評価というものになります。
 定量評価とは決算書の内容のみで銀行が独自の財務スコアリングモデル(決算書採点基準)で評価する手法であり、客観的かつ自動的に行われます。これが格付けの評価の70%から90%を占めると言われます。
 残りの部分を定性評価が占めます。定性評価とは経営者の人柄や能力、その事業の属する業界やその先行きなどを対象としています。定量評価に比べると不確定な部分がおおく、客観的な評価が難しいのがおわかりなるかと推測されます。
 これに加えて、不良債権の有無などの実態調査などにより格付けの基準となる採点を調整しています。
 つまり通常の融資はほとんどの部分が確実な客観的な評価に委ねられるのです。創業融資はこの部分がかなり緩和されてはいますが、客観的な評価というものが極めて重要であることはおわかりになるかと思われます。

②創業融資の審査ポイント

 創業融資の審査ポイントは「事業の収支見込み」「経営者の能力」「経営者の財務状況」の3点にまとめることができます。


「事業の収支見込み」


 事業の収支見込みとは、創業した事業が利益をしっかりとあげて、継続し、融資金を返済できる見込みのことです。創業融資では日本政策金融公庫及び制度融資では創業計画書の中で、「事業の見通し」又は「収支計画」という欄があり、そこに記載された情報を基に審査されます。ここに記載する情報は、売上、売上原価、経費などの予測です。しっかりと利益のあがる計画を記載するのはもちろんですが、できるだけ客観的な根拠を持ってその裏付けを説明できるようにしていかなければなりません。
 おそらく経費部分の根拠づけはこれだけの情報化社会なので根拠を持って説明することができるでしょう。問題は売上や売上原価です。販売先や仕入先があらかじめ確定していて、その契約書や見積書などを持参できるのが理想ですが、なかなかそうもいかないのが現実です。その場合にはやはり工夫が必要になります。自分の収支の見込みについては、見込みといえども、可能な限り根拠と具体性もって説明できように準備をしましょう。

「経営者の能力」


 経営者の能力とはその事業を運営できる能力であり、その事業の経験や知識はもちろんですが、サラリーマンではなく経営者としてのマネジメントや論理的思考ができるかという能力です。またとても基礎的なことですが、一般的な常識があり信頼できる人物であるかということもみられます。創業した社長は、少人数または一人で会社を運営せざるをえません。その中には営業や接客も含まれますので、常識的な振る舞いができるかどうか、しっかりとお金を返済してくれる信頼できる人間なのか、という点も審査の対象です。

「経営者の財務状況」

 経営者の財務状況とは、経営者の資産と債務の状況といってよいです。創業してすぐに利益がでて、資金繰りも良好という会社はほとんどありません。赤字続きで、資金調達に苦労する経営者が沢山いらっしゃいます。そういった状況の中で、経営者にすでに負債があり、毎月多額の返済をしているような状態ですと、当然ですが事業の継続性が危ぶまれます。またその逆に資産に余裕があるような状態ですと、厳しい状況を乗り越えられる期待値があがりますので高評価にとらえられます。

 

 融資で満足のいく結果をえるためには、この3点ついて客観的な根拠をもって説明していくことを考慮にいれていくことがよい結果につながります。

創業融資の審査ポイント(2)

創業融資の手続きのながれ2 ~制度融資編~

制度融資で創業融資をうける場合の手続きの流れについてご説明します。
制度融資は中小企業保証協会が融資の保証を行うため、日本政策金融公庫などと比較すると、当事者が多くなることにより、手続きに時間がかかる傾向にあります。

ステップ1 金融機関の決定
制度融資の場合には、中小企業保証協会は保証を行うが、融資を行うのはあくまでも銀行などの金融機関であるため、その融資申請に窓口となる金融機関を決める必要があります。
原則的には金融機関であればメガバンクでも地方銀行でも信用金庫でも選べるのですが、メガバンクの場合には対象としている会社の売上規模が高く、実質的に殆どの創業者の方がメガバンクで融資を受けられるのはなかなか難しいでしょう。また地方銀行や信用金庫などのほうが、その後の追加融資の際などにも面倒見がよく、また創業者への融資も積極的です。まずは地方銀行や信用金庫などとのお付き合いを始めてみることをお勧めします。

ステップ2 相談
選択した金融機関に制度融資を受けたい旨を相談しておきましょう。
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合と同じですが、窓口での相談の際には登記簿謄本など、事業の概要がわかるものを持参すると、スピーディーに話がすすみます。

ステップ3 申込
作成した申込書類を金融機関か保証協会に提出します。

ステップ4審査
提出した書類を管轄の中小企業保証協会が審査します。
中小企業保証協会の担当が融資の申込みをした会社に出向き、会社が実態などを確認します。ここで保証がOKになれば中小企業保証協会から融資を申し込んだ金融機関に信用保証書が送付され、これを基に金融機関では改めて融資の審査を行、融資の可否を決めます。
中小企業保証協会が融資先に出向く場合、いくつか質問がされますが、ここでどのような質問がされたかはよく覚えておくようにしましょう。その後、万が一、融資の減額や否決がされた場合にはその質問の内容から推測することができることがあります。

ステップ5 結果通知
面談終了後、1週間から10日で結果の通知がきます。殆どの場合はここで通知された金額が融資額となります。さらに追加書類が必要な場合にはこの期間内に連絡がきます。
融資額の減額または融資が否決されることもありますが、ここで重要なことは今後の融資のために融資担当者に減額又は否決の理由を尋ねておくことです。
その問題が改善されれば次の融資はより期待通りの結果となる可能性が高まります。

ステップ6 融資実行
決定された条件に基づいて融資額が銀行に入金されます。
殆どの場合には、実行前に金融機関から融資の可否や金額について連絡がきます。
ここで融資が減額または否決された場合には、今後の融資のために必ずその理由について尋ねましょう。

日本政策金融公庫で融資をうける場合の手続きは【創業融資の手続きのながれ1】をご覧ください。

創業融資の手続きのながれ1 ~日本政策金融公庫編~

日本政策金融公庫編で創業融資をうける場合の手続きの流れについてご説明します。

ステップ1 相談
最寄りの日本政策金融公庫の支店への相談。
登記簿謄本など、事業の概要がわかるものを持参すると、スピーディに話がすすみます。
借入れ申込書や創業計画書などを手渡されますが、こちらはインターネットでもダウンロードできます。
税理士や公認会計士に相談すると、この手続きが省略されることもあります。

ステップ2 申込
借入れ申込書、企業概況書、創業計画書を含むその他の必要書類を持参してご自身の事務所などの所在地を管轄する日本政策金融公庫の窓口に提出します。郵送またはインターネットでも受け付けています。

ステップ3 書類審査及び面談
提出された書類が内部で審査され、しばらくすると面談の予定日の連絡がきます。
提出された書類に基づく面談ですが、追加書類が求められることはしばしばありますので、追加が予想される書類は事前に準備しておくか、すぐに取得できるようにしておきましょう。

ステップ4 結果通知
面談終了後、1週間から10日で結果の通知がきます。殆どの場合はここで通知された金額が融資額となります。さらに追加書類が必要な場合にはこの期間内に連絡がきます。
融資額の減額または融資が否決されることもありますが、ここで重要なことは今後の融資のために融資担当者に減額又は否決の理由を尋ねておくことです。
その問題が改善されれば次の融資はより期待通りの結果となる可能性が高まります。

ステップ5 融資実行
決定された条件に基づいて融資額が銀行に入金されます。

創業融資の手続きのながれ2

金融機関による創業融資のちがい

創業時の融資には日本政策金融公庫の行う「新創業融資」と各都道府県や自治体の制度融資の一部の「創業融資」があります。
この2つの融資の諸条件は変化していってはいるのですが、主な相違と利用上の注意点についてまとめていきます。
各融資の概要などについてはこちらのリンクでご確認ください。
日本政策金融公庫「新創業融資」
都制度融資「創業融資」

主な相違点

①申込み期間
日本政策金融公庫「新創業融資」→開業又は事業開始後税務申告を2期終えるまで
都制度融資「創業」→「開業または事業開始後5年まで」

②雇用創出等の要件
日本政策金融公庫「新創業融資」→あり
都制度融資「創業」→なし
雇用創出とは事業で人を雇うことではありますが、アルバイトやパートを雇う場合などでも要件を満たし、また創業して直後でなくとも近い将来に雇うという場合には問題ありません。

③融資限度額(運転資金)
日本政策金融公庫「新創業融資」→1500万円まで
都制度融資「創業」→・開業前 自己資金に1000万円を加えた額まで(2500万円が限度)
         ・開業後 2500万円まで

④金利
金利はご融資を受ける方や条件によって微妙に変化するので一概にはいえないのですが、
注意すべきは制度融資の場合には信用保証協会への使用保証料が発生するという点です。
もしも金融公庫と制度融資で条件を比較するのであれば、信用保証料の存在も忘れてはいけません。

⑤自己資金要件
日本政策金融公庫「新創業融資」→創業資金の1/10
都制度融資「創業」→なし

まとめ

この相違点だけをみてしまうと、日本政策金融公庫「新創業融資」の方が融資に関する諸条件が厳しいように思われますが、公庫と制度融資では審査基準が異なり、それにより融資の条件も変わってきてしまうので、実際に融資をうけてみないとわからないというのが現場を経験しての率直な感想ではあります。

創業融資を積極的に活用しよう~創業融資のススメ4~

創業される方の80%程度の方は創業時に自己資金をご用意しております。創業にあたって借入などをせずに自己資金だけですませることが理想、と思われている方が多いのではないでしょうか?
しかし「会社のサバイバル能力を高めよう~創造業のススメ3~」でも記載したとおり、日本金融公庫などの創業融資を活用した企業の生存率は平均的な企業の生存率に比べてかなり高い傾向にあります。
理由はいくつかありますが、そのひとつとして自己資金のみで開業することのリスクの高さがあります。
ここでは自己資金のみで開業することのリスクをあげていきます。

①創業後のしばらくの支出は凄い
創業後はまず設備や営業所などの賃貸費用など初期投資などで多額のお金がでていきます。さらに殆どの場合、想定外の支出はつきものです。さらに多くの場合は、創業後すぐには売上があがらず、固定費部分と社長自身の生活費などで赤字が続くでしょう。
売上があがったとしても、入金までは短くても一か月、手形などで支払われた場合にはさらに数か月先ということもしばしばあります。
創業後しばらくのお金の減り方は凄まじいものがあり、最悪の場合には会社の運営に支障をきたしかねないのです。

②創業時は融資を受けやすい
創業時の融資は創業計画や創業者の財務的な健全性などにより評価されます。ただ一度、創業してしまうと、会社の実績などにより審査が行われます。赤字だからお金を借りようとはなかなかいかないのが現実です。金融機関は赤字や資金繰りが厳しい企業への融資は後ろ向きです。
創業計画書どおりに企業が運営できないことも予測しつつ、創業融資などにより資金的なゆとりを持っておくことをぜひおすすめします。

③資金調達のノウハウ
会社を運営していると、大量の資金が必要な場面が必ずあります。設備投資をおこなう、あるいは高額な在庫を抱えなくてはならない場面などです。
こういった場合に資金調達のノウハウをもつことは非常に有用です。
このノウハウがないと、必要になった時には借入が難しい状態であったり、必要なタイミングで資金を用意できなどの弊害が生じるでしょう。
このような問題が生じないためにも、創業融資をうけ、金融機関との付き合いを積み重ねていくことをおすすめしております。

会社のサバイバル能力を高めよう~創業融資のススメ3~

創業されたお客様のなかには「会社って平均で何年くらいもつのですか?」という質問をされる方がおられます。おそらく創業にあたり期待と不安の入り混じったなかでの疑問だったのではないかと思われます。私自身、設立した会社は3年以内に3割の会社が廃業、10年をこえて継続できるのは1割くらいみたいなことを誰から学生時代に友人から聞いた記憶があります。
中小企業庁の2005年時点の中小企業白書をみるかぎり、1年後の存続率が72%、3年後で50%程度、10年後で26%程度ではないかと読みとれます。
ただ私が税理士事務所での勤務時代に創業から関与させて頂きましたお客様を見る限りでは順調なお客様もいらっしゃれば苦しいお客様にいらっしゃいましたが、3年で5割の廃業というのはあまり実感のわかない数字です。ほとんどのお客様は創業融資をご活用されていました。
日本政策金融公庫の「新規開業パネル調査」(2016年12月)というデータを見る限り、日本政策金融公庫が融資をおこなった企業については3年後の生存率が94.5%をこえ、5年後の生存率89.2%という数値となっています。
私の実感としてはこちらの数値のほうが近いように思えます。
何故、日本政策金融公庫から融資をうけた企業の生存率が高いのかというと
まずは事業計画について融資審査という客観的な評価をうけたこと、支出が多い創業期に資金的なゆとりをもてたこと、資金繰りのノウハウを早期に見つけたこと。
この3点が大きいのではないかと推測されます。
やはり企業の末永い繁栄には、綿密なビジネスプランと第三者による客観的な評価、創業時の資金の準備、また創業後の困難な局面を耐えるための資金繰りの知識の早期の取得が必要ではないでしょうか。

創業融資のススメ4

法人設立の注意点

これまで個人事業主としてご商売をされてきて、これから法人としてご商売をされていきたいという方に向けて主要な注意点をまとめてみました。

【1】役員報酬の制限

 役員報酬は会計期間開始の日から3ヵ月以内に決定し、原則としては次の定時株主総会(翌会計期間開始の日から3ヵ月以内)まで変更できません。また法人税法上は登記簿や定款の役員だけではなく実態として役員と同じような立場にある人物も役員としてこの制限をうけることとなります。

 詳しくは、「役員報酬は変えられない!!」、 「特殊!!会社のみなし役員」をご覧になってください。

【2】資金管理

 個人と法人は別人格であるため、法人の資金は明確な管理が求められています。役員の方の報酬は、預金からは毎月同額のお給料が同時期に引き落とさるようにする必要がありますし、会社の口座から引き出した現金が経費などで使いきれず、社長が持つような場合には貸付金として扱われます。
 貸付金として扱われると、法人から役員に対して利息の請求をする必要が生じます。また金融機関に借入などを申し込む際には、役員への貸付などが多額にあることは良い印象をあたえません。

【3】確定申告書の提出期限

 法人の場合には任意の事業年度終了の日から2月以内です。個人の確定申告より15日程度期限が短くなっておりますので、お早めの対応をお願いします。

【4】法人設立又は精算の費用

 株式会社の設立には各種士業への報酬を除いて、一般的に20万円~30万円程度の費用が必要となり、清算の場合にも同程度の費用がかかります。

【5】赤字でも法人住民税均等割が課税される

 法人の場合には赤字でも住民税均等割額がおおむね7万円程度課税されます。(会社の規模により増加する可能性がございます。)

【6】社会保険の負担

 個人事業者の場合には従業員が5人までは健康保険と年金保険への加入は任意ですが、法人は規模に関わらずに健康保険組合と厚生年金保険の加入が義務付けられ、その費用は従業員と折半となります。
 こちらは役員の方も同様です。その場合の保険料は会社負担分と個人負担分を合計すると30%程度となり、一般的には個人で支払う保険料の合計額よりも、会社で支払う保険料の合計額の方が大きいので注意が必要となります。

【7】個人事業の資産を法人へ引継ぐ場合の注意点

 個人事業者であった時に使用していた資産を法人に引継ぐ場合は、贈与、売却または現物出資であっても税法上は譲渡したものとして扱われ、法人又は個人の課税対象となります。

【8】消費税法の納税義務

 基本的には法人の設立後2年間は消費税が課されない免税事業者ですが、法人の設立時の状況または法人の設立後1年間の業績などによっては、そもそも免税事業者になれない若しくは免税事業者である期間が短くなります。
 また設立から2年間免税事業者であっても、ご商売の状況などによっては免税事業者ではないことを選択するほうが有利になる場合がございます。(輸出などの海外取引を行う場合、設立してすぐに多額の設備投資や商品に仕入れを行う場合など)

 詳しくは、「消費税にご用心2 ~消費税の納税義務~」をご覧ください。

まとめ

設立時の法人及び事業主様の状況や、設立後のご予定などについて税理士に
ご相談されることをお勧めいたします。