会社の税金

交際費と寄付金の判断基準について

こんにちは、突然ではありますが、近年の話題で自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件がありましたね。企業がこのパーティ券を購入したとしたら、交際費でしょうか?寄付金でしょうか?​

答えは「どちらにもなる可能性がある」です。​

こちら面白い論点になりますので、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。

寄付金と交際費

交際費と寄付金の違いとはなんでしょうか。​

一言で言えば「反対給付(対価性)があるかどうか」ということになります。​

ここから詳しくみていきたいと思います。

意義の違いからみる寄付金と交際費

交際費と寄付金の意義を比べてみましょう。​

〇交際費​

「交際費とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のあるもの等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう。」​

ただし、次の費用は交際費等から除かれる。​

(1)専ら従業員の慰安のために行われる運動会等のために通常要する費用(∴福利厚生費)​

(2)飲食費であって、参加者一人当たりの支出額が10,000円以下の費用(一定の書類を保存している場合に限る)(∴損金(法人税法上の費用))​

(3)カレンダー等の贈答費用、会議費、取材費として通常要する費用(∴広告宣伝費・会議費・取材費)

〇寄付金​

「寄付金の額は、寄付金、拠出金、見舞金その他いずれかの名義をもってするかを問わず、次の価額をいう。ただし、広告宣伝費、見本品費その他これらに類する費用、交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く」​

(1)内国法人が金銭その他の資産の贈与をした場合​

→その金銭の額、金銭以外の資産のその贈与時の価額​

(2)内国法人が経済的な利益の無償の供与をした場合​

→その経済的な利益のその供与時の価額​

今ご覧いただいた通り、相手のための支出したという点で交際費と寄付金はかなり似ていますね。​

結論何か違うのかと言えば​

支出した相手先が事業関係者等かどうか

その支出に反対給付(対価性)があるかどうか

の2点があるということがここから読み取れます。

事例からみる交際費と寄付金

上記①については相手先との関連性ですので、説明は省略させていただきます。​

ここからは②について事例を使ってみてきましょう。​

◎特定の政治団体の中傷行為等を排除するためにやむなく支出した金員は交際費ではなく寄付金に該当するとした事例​

請求人は、特定の政治団体の中傷行為等を排除するためにやむなく支出した金員は、その支出の経緯や当該政治団体が請求人の事業関係者等に当たらないことから、寄付金や交際費等に該当しないと主張するが、一般に寄付金とは、金銭その他資産の贈与又は経済的な利益の供与のうち、事業の遂行に直接関係のあるもの以外のもの、すなわち、事業の遂行に直接関係ないもの及び事業の遂行との関係が明らかでないものと解され、特定の政治団体に対する本件支出金は、請求人の事業遂行に直接関係ないものであるので寄付金に該当すると認めるのが相当である。​

つまり、今回の事例はそもそも事業に直接必要な支出だったのかという部分で争われています。結果的に事業に必要ないのない(対価性がない)支出ということでこの支出は寄付金になりました。

引用元 (寄付金の範囲 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所)​

次は交際費ではなく外注費ですが、対価性を問われたケースの一つとなります。​

◎外注費として支出した工事代金等につき対価性がなく寄附金に該当するとした原処分の一部を取り消した事例​

《ポイント》​

 一般に、会計帳簿は業務上の金員の動きがそのまま記載されるものであるから、特段の事情のない限り、会計帳簿に記載されたとおりの事実を認めることができるところ、原処分庁が会計帳簿に記載された事実(費用)について対価性がないと認定する場合には、原処分庁がその立証責任を負うことになる。​

 この事例では、請求人が会計帳簿に記載された事実と異なる事実を主張したことから、請求人において、かかる事実の存在や異なる事実を会計帳簿に記載することとなった事情などの特段の事情を立証する必要があるとしたものである。​

《裁決の要旨》​

 請求人は、各事業年度に追加の外注費として支出し損金の額に算入した金員(本件支出金)は、①過去に施工された工事に係る追加の支払を現場名を付け替えて支出したもの、及び②実際の工事対価の支払として支出したものであり、対価性があることから、法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第7項に規定する寄附金には当たらない旨主張し、一方、原処分庁は、本件支出金にはいずれも対価性がなく寄附金に当たる旨主張する。​

 上記①に係る本件支出金については、請求人の会計帳簿等に記載された現場と関係がない上、請求人が主張する追加支払に合理的理由や支払うべき特段の事情があったとはいえず、対価性のない支出であると認められることから寄附金に該当する。一方、②に係る本件支出金については、実際に工事が行われており、当該工事に係る対価であると認められることから寄附金に該当しない。​

《参照条文等》​

 法人税法第37条第7項​

こちらは、過去に施工された工事に係る追加の支払と主張したものが合理的理由や支払うべき特段の理由がないために対価性がないとみなされ寄付金となったものになります。​

引用元(寄付金の範囲 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp))

冒頭の条件をもう一度記載すると

支出した相手先が事業関係者等かどうか

その支出に反対給付(対価性)があるかどうか

上記の要件を満たす(説明できる)資料があるかどうかが重要であると言えます。

ここで冒頭のパーティ券の事例に当てはめてみると

パーティーに事業関係者が多く出席する

上記の理由から実際に出席したものである

上記①②が共に認められる場合には出席分のパーティ券代は交際費となり、そうでない場合には寄付金となります。

参考(東京地方税理士会|暮らしと税 (tochizei.or.jp))

まとめ

以上が簡単ではありますが、交際費と寄付金についてになります。

いかがだったでしょうか。

他にもご紹介出来ていない部分や、その他の経費と寄付金の話もございます。

今回の話は実際にも重要な部分で、判断が難しいものになります。

何かございましたらお気軽にご相談下さい。

電子帳簿保存法とは​

概要

電子帳票保存法とは、一言で言うと紙の領収書や請求書などを電子データで保存しなければならないこととできる旨を定めたものになります。

対象者

電子取引を行っているすべての事業者(ほぼ全ての事業者)が該当します。

対象期間

2024年(令和6年)1月~以後にやり取りする電子取引データが対象になります。

対象書類

(1)データでやりとりをした書類(注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書など)​

(2)会計ソフト等パソコンを使用して作成した帳簿書類(仕訳帳、総勘定元帳、貸借対照表など)​

(3)紙でやりとりした書類(契約書、見積書、注文書、領収書など)

内容

電子帳票保存法にはMust(しなければならない)もの1つとCan(できる)もの2つが混在しています。​

こちらを理解するために分けてみていきましょう。​

(1)電子取引関係の保存​

 こちらはMust(しなければならない)になります。​

 対象書類は上記の(1)に載っているもので今までは紙で印刷して保存することが可能で   したが、2024年1月からはそれが出来なくなります。​

(2)電子帳簿・電子書類関係の保存​

 こちらはCan(できる)になります。​

 対象書類は上記の(2)に載っているもので、一定の要件を満たして、かつその旨を事前に税務署に届出た方には、その電子帳簿に関して過少申告があった場合には過少申告加算税を5%軽減する措置があります。​

(3)スキャナ保存関係​

 こちらもCan(できる)になります。​

 対象書類は上記の(3)に載っているもので、簡単にいえば紙を置くスペースが減ってオフィスなどを効率的に使えるようになる。といったメリットがあります。

保存方法

各保存について要件があります​

(1)電子取引関係の保存​

 ①改ざん防止​

  (例)タイムスタンプを付与、訂正・削除の履歴が残るシステム等の利用​

 ②日付・金額・取引先で検索可能​

 ③ディスプレイとプリンターの設置​

(2)電子帳簿・電子書類関係の保存​

 ①システムの説明書やディスプレイ等を備え付けていること​

 ②税務署職員からのデータの「ダウンロードの求め」に応じることができること​

 ※さらに一定の要件を満たして、届出をしていた場合には過少申告加算税の軽減措置あり​

(3)スキャナ保存関係​

 入力期間の制限やカラー画像・解像度・タイムスタンプの付与など細かい規程があり​

 こちらに関しては税務署HP(スキャナ保存関係|国税庁 (nta.go.jp))にてご確認下さい

まとめ

今回対応を求められているのは(1)電子取引関係の保存になります。​

今年の内に御社の書類でデータでやり取りしているものを把握し、改ざん防止についてどういった方法で処理をするのか検討しておくことが大事ですね。​

急にタイムスタンプなどは難しいという方は国税庁に代わりに規程(参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁 (nta.go.jp))をつくる方法もございます。​

お忙しい中対応するのは難しいこともあるかと存じます、何かありましたらお気軽にご相談下さい。

出張旅費規程と出張手当について

今回は、仕事で遠方や宿泊を伴う出張をした場合に支給する費用の会計処理について見ていきたいと思います。

出張をした場合、実際にかかった交通費や宿泊費などは、もちろん経費として計上することができます。

(ただし、経費として計上するためには、交通費や宿泊費を支払った領収書が必要となりますので、領収書はしっかりと保管をしておきましょう)

しかし、出張先で外食をしたりお弁当を買ったりと食事をすることは当然ありますよね。また、出張のためにちょっとした日用品を購入することもあると思います。

そこで、出張先での個人の飲食や日用品の購入の手当として、実際の交通費や宿泊費とは別に「出張手当」を支給している会社も多いのではないでしょうか?

この出張旅費の手当は、支給前に規定が必要であり、個人事業主と法人では会計処理が異なる場合などがあります。

そこで、今回は出張手当を支給するための前提条件や出張手当を支給したときの会計処理などを詳しく見ていこうと思います。

出張手当を支給するには

まず、出張手当を支給するには「出張旅費規程」の作成が必要となります。

出張旅費規程では、出張手当として一定金額の支給を決めておく以外にも、宿泊代や交通費の支給について出張の日数や移動距離に応じて支給する金額を事前に決めておくこともできます。あらかじめ、宿泊代や交通費を一律で決めておくことで、細かい実費精算の手間を省くことができます。

(ただし、出張手当の中に、一律で定められた宿泊代がある場合は、その出張で支払った宿泊費の実費精算はできません)

この出張旅費規程は税務署への届出などの必要はありません。

ただし、法人の場合は作成した出張旅費規程の承認を株主総会で受ける必要があります。また、支給する金額については、役職によって変えることはできますが、原則として会社で働いている従業員全員を支給対象とする必要があります。

社長や役員のみに支給し、従業員へは支給しないということは原則として認められません。

個人事業主が事業主本人へ出張手当を支給した場合

個人事業主が出張旅費規程を作成して、事業主本人へ出張手当を支給した場合には経費として計上できません。

個人事業主が経費として計上できるのは、実際に支払った交通費や宿泊費、取引先との飲食代などの実費分だけになります。

法人が社長へ出張手当を支給した場合

法人である会社が社長へ出張手当を支給した場合は、支給した出張手当を経費として計上できます。もちろん、出張旅費規程を作成し、規定で定められた金額に限りますが、支給した全額を旅費交通費などの経費として計上できます。

ただし、社長を含む役員の出張手当が不自然に高額であったり、役員と従業員で支給される出張手当にあまりにも差があったりという場合などは、税務調査で指摘される可能性があるので注意が必要です。

個人事業主が事業主本人へ出張手当を支給しても経費として認められませんでしたが、法人として社長へ出張手当を支給する場合には経費と認められます。

この点については、法人を設立するメリットの一つと言えるでしょう。

個人事業主・法人が従業員へ出張手当を支給した場合

個人事業主の場合でも、法人の場合でも従業員へ出張旅費規程で定めた出張手当を支給した場合には経費として計上できます。

出張手当を支給された側の課税関係

基本的に、給与として家族手当や家賃補助、交通費(非課税交通費を除く)が支給された場合には、支給された金額に対して、所得税や住民税、社会保険料などがかかってきます。

しかし、この出張手当については、支給された側の所得税・住民税はかからず、社会保険料の対象にもなりません。

そのため、従業員としては、給与として支給されるよりも出張手当として支給される方が手元に残る金額が大きくなります。

出張手当を経費として認めてもらうためには

出張手当は、出張をした場合にその出張をした本人に出張旅費規程で定めた金額を支給するため、証拠となる書類や領収書などがありません。

過去には、実際には出張へ行っていないのに出張手当として手当を支給したという事例もあり、出張手当は税務調査で比較的チェックされやすいポイントとなります。

そこで、出張手当を支給した場合には、支給した本人に「出張報告書」や「旅費精算書」を作成してもらい実際に出張に行ったという証拠を残しておきましょう。

また、出張旅費規程で出張手当の中に宿泊代や交通費も規定している場合は、出張手当として宿泊代や交通費を支給したら、その出張での実際の宿泊代は経費として計上することはできません。

しかし、宿泊代や飲食代の領収書は出張へ行ったという明確な証拠となるため、出張中にかかった宿泊代や飲食代については、その実際の支出額を精算しない場合でも、出張報告書や旅費精算書と一緒に保管するようにしておきましょう。

出張手当を経費として確実に計上するためにも、出張旅費規程で出張報告書や旅費精算書の作成を規定しておいた方が良いでしょう。

まとめ

今回は出張旅費に関して、出張手当の支給の仕方や支給したときの会計処理についてみていきました。個人事業主が事業主本人へ出張手当を支給した場合と法人が社長へ出張手当を支給した場合では経費としての扱いが変わってくるので注意が必要です。

出張旅費をあらかじめ決めておくことで、宿泊費や交通費などを出張の都度、実費精算をする手間が省け、一般的に実際の宿泊代や交通費より手当として支給した金額の方が大きくなる場合も多くその場合には、会社側にとっても節税になります。

また、出張手当を支給された側(社長や従業員)は所得税や住民税が非課税となり、社会保険も対象外のため、従業員も会社もどちらにも節税効果がある支出となります。

出張旅費規程をしっかりと作成し、出張手当を支給することで会社も従業員もメリットを受けることができます。

まだ、出張手当を支給したことがないという場合は、ぜひ出張旅費規程の作成と出張手当の支給についても検討してみてはいかがでしょうか?

(今回の記事は、2022年8月時点の法令を基に作成しております。)

消費税の納付義務がある人とは?

法人の会社を経営している方や個人事業主として活動している方は、毎年それぞれの申告時期に確定申告をしているかと思います。

法人税や所得税は、基本的に利益がプラスでもマイナスであっても、法人の場合は法人税、個人の方は所得税の申告を毎年しなければいけません。しかし、消費税はすべての法人・個人事業主が申告(納付)するものではありません。

また、2023年10月からインボイス制度も始まり、ますます消費税の制度が複雑になりましたが、今回はどのような場合に消費税の申告をしなければいけないのかを見ていきたいと思います。

消費税の納税の有無についての判定は、法人の場合も個人の場合も同じになります。

なお、今回の記事は、2024年10月時点の情報を基に作成しております。

消費税の免税事業者・課税事業者とは?

①  消費税の免税事業者とは 

 消費税の免税事業者とは、消費税の納税義務のない法人・個人事業主のことをいいます。

 原則として、法人の開業から2年間は、消費税の免税事業者である場合が多いです。

 消費税の免税事業者の場合は、消費税の申告の必要はありません。

②  消費税の課税事業者とは

 消費税の課税事業者とは、消費税の申告・納付の義務を負う法人・個人事業主のことをいいます。

 法人の消費税の申告・納付の期限は、法人税の申告期限と同じです。

 個人事業主の消費税の申告・納付の期限は、翌年の3月31日までとなります。

 ※個人の方は所得税の申告期限と異なりますが、所得税の申告・納付と同時に消費税の申告・納付をする場合が多いです

消費税の課税事業者となる場合

消費税の課税事業者になる場合には一番多く知られているのは、以下の①で知られているパターンで、殆どの方は

売上が1000万円をこえると消費税を払わないといけないなどとご記憶されていることでしょう。
以下で消費税の課税事業者となる一般的なパターンを説明いたします。

①  基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合

消費税の納税の有無を判定するのに「基準期間」の課税売上高が重要となってきます。

基準期間とは、前々期(法人の場合は前々事業年度、個人の場合は前々年)の売上のことをいいます。

つまり、個人事業主の方は、2022年の課税売上高が1,000万円を超えている場合は、2024年から消費税の課税事業者となり、所得税の確定申告の他に消費税の確定申告をする必要が出てきます。

法人の場合は、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超える場合に、法人税の確定申告と消費税の確定申告を行う必要があります。

②  特定期間の課税売上高と給与等が1,000万円を超える場合

上記①の基準期間の課税売上高が1,000万円以下であった場合でも、課税事業者に該当する場合があります。それは、「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超える場合です。

(課税売上高に代えて、特定期間中に支払った給与等の金額により判定することもできます。)

特定期間とは、前年度の上半期の期間(法人の場合は原則、前事業年度開始の日以後の6か月間、個人の場合は前年の1月1日~6月30日まで)のことをいいます。

この特定期間の課税売上高と給与等の金額がそれぞれ1,000万円を超える場合は消費税の課税事業者となります。

この場合は、課税売上高と給与等の金額の両方が1,000万円を超えた場合であり、課税売上高か給与等のどちらかが1,000万円以下の場合は課税事業者には該当しません。

③  「消費税の課税事業者選択届出書」を提出している場合

上記①、②に該当していない場合であっても、消費税の課税事業者になることはできます。それは、「消費税の課税事業者の選択届出書」を税務署に提出している場合です。

原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(適用を受けようとする課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)に「消費税の課税事業者の選択届出書」を提出することによって、特定期間や基準期間の課税売上高などに関係なく消費税の課税事業者になることができます。

④その他の場合
①~➂では一般的な課税事業者となるパターンについてご説明差し上げました。ただこの他にも特例により消費税の課税事業者にならざるをえない状況もいくつかございます。

さらに、2023年10月からインボイス制度が始まったため、今まで免税事業者で消費税の納税義務がなかった方でも、消費税の課税事業者になることを選択する方が増えてくるでしょう。

消費税の納税義務の判定は、非常に複雑なものになります。特に課税売上高が1,000万円前後の場合などは、判定に迷う場合も多いのではないでしょうか?

また、インボイス制度の導入により、消費税の課税事業者になった方が良い場合と免税事業者で良い場合がそれぞれの事業の業態によって変わってきます。

消費税の納税義務や判定方法を詳しく知りたいという場合は、税務署や会計事務所に相談してみることをお勧めします。

棚卸資産の評価について

 今回は、保有している棚卸資産の評価について確認していきたいと思います。

棚卸資産とは、完成している商品や製造途中の製品や製品の原材料、事務用消耗品である貯蔵品などのことをいいます。

前回の記事では、棚卸資産の評価方法としては7種類あり、その7種類のうちから、各企業が自分の会社に合った方法で棚卸資産の評価をするということを確認しました。

 棚卸資産は、基本的に取得価格を基準として各企業が選択した評価方法によって評価額を算定します。この時に、取得価格と評価時点での棚卸資産の価格があまりにも異なっていた場合、適正な資産額を把握することができません。

例えば、10年前に原材料としてパソコンを購入したとします。そのパソコンを現在でも原材料として保有している場合、現在では10年前のパソコンに10万円の価値はなくなってしまっている場合が多いですよね。

 このように、購入したときの価格と評価する時点での価格に大きな差が生じている場合に購入時の取得価格のままで棚卸資産として計上してしまうと、企業の正確な資産の把握ができなくなってしまいます。

そこで、棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より小さい場合と棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より大きい場合に分けて考えていきます。

 まず、棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より小さい場合についてです。

10万円で購入した材料が、評価時点で15万円になっていたというような場合ですが、このようなときは基本的には評価益は計上しません。会計上、棚卸資産に評価益がある場合は、その商品を販売したときに利益が確定するため、評価時点での益は計上しないということになっています。

 次に、棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より大きい場合についてです。

10万円で購入した材料が、評価時点で2万円になってしまったというような場合ですね。

保有している棚卸資産の時価が評価額よりも大きく下回っていた場合、実際の価格は低いにもかかわらず、貸借対照表上では取得価格をもとに算定された評価額が計上されてしまいます。これでは、企業の正確な財政状態を把握できなくなってしまいます。そのよう場合には、税務上、棚卸資産の評価損を計上することが認められています。

しかし、取得価格と評価時点での価格に評価損がでればすべて損金として計上できるというわけではなく、評価損の扱いについては法人税法で定められています。

税法上、棚卸資産の評価損の計上が認められているのは主に次の3つです。

災害により著しく損傷したこと

→台風や地震などの自然災害により商品に損害がでてしまったときなどに認められます。

著しく陳腐化したこと

→いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであることや商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったことなどが考えられます。〔法人税法基本通達9-1-4

その他準ずる事実が発生した場合

→例えば、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことなどが挙げられます。〔法人税法基本通達9-1-5

法人税法第33条第2項

このように①~③の事実に該当するときは、税務上、棚卸資産の評価損を損金として計上できます。

 しかし、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下したなどの理由では損金に計上できないので注意が必要です。

商品の型式が古くなった場合や新性能の商品が発売されたことにより旧性能の商品の販売価格が下がってしまったなど場合は評価損の計上が認められます。

一方で、過剰に生産したため販売価格が下がったり、他社との値下げ競争のため商品の価格が下がったりしたような場合には評価損の計上は認められません。

 つまり、棚卸資産の評価損を計上するためには、価格がいくら下がったのかよりもなぜ価格を下げたのかという理由が重要となってきます。評価損を計上した場合には、その値下げの合理的な理由を証明できるように書類等を保存しておいた方が良いでしょう。

 以上のように、棚卸資産の評価益については原則計上しない、評価損については税法上認められている部分については評価損を計上できるということがわかりました。

長期間保有している材料や売れ残っている製品などは取得価格と評価時点での価格に差がある場合も多いかと思われます。そんな時は、税法上で認められる範囲で評価損を計上し、適切な棚卸資産の価格を把握するようにしましょう。

合同会社と株式会社の違い

個人事業主として営んでいる事業を法人化して色々な税制優遇を受けたいという場合や法人を設立したいけれど費用面が心配だという場合に、【合同会社】を設立するという方法があります。

正確には、法人には「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」の4種類がありどの種類で設立するか選ぶことができます。

今回はその中でも、設立されることが多い「合同会社」と「株式会社」を比較してみようと思います。

合同会社とは、アメリカではLLCと言われている会社の形態で、日本では2006年から制定されました。代表的な企業名としては、Appleやアマゾン、グーグルなどの世界的な大企業が日本では合同会社の形態で日本法人を設立しています。

今回は、最近、設立が増えてきている合同会社と一般的な形態である株式会社の共通点や相違点、それぞれのメリットやデメリットを見ていこうと思います。

合同会社と株式会社の共通点

①決算・申告・納付について

合同会社も株式会社も年に1回企業の利益を計算し、確定申告書を作成、利益に応じて法人税・地方税・消費税等を納付する義務が生じます。

決算書や申告書の書式や作成方法、提出や納付の期限については合同会社も株式会社も違いはありません。

また、決算月を定款で自由に定めることができるというのも共通です。

(ただし、定款で定めた決算月は原則として変更はできません)

②法人の税制優遇について

基本的に合同会社であっても株式会社であっても法人であることには変わりないため、受けられる税制優遇に違いはありません。法人化の大きなメリットである役員報酬の費用計上や赤字を繰り越せるなどの優遇制度は合同会社でも株式会社でも適用をうけることができます。

③社会保障への加入義務

法人の場合は役員が一人の会社であっても社会保険の加入が義務付けられていますが、こちらも合同会社であっても株式会社であっても違いはありません。

役員一人のみで合同会社を設立した場合でも、社会保険へは加入しなければなりません。

合同会社と株式会社の相違点

①会社の商号と代表社員の名称

合同会社と株式会社の大きな違いの一つが会社の商号と代表者の名称です。

合同会社の場合は「〇〇合同会社」、株式会社の場合は「☆☆株式会社」という商号になり合同会社が株式会社の商号を付けることはできません。

また、社長の名称も合同会社は「代表・社長」等、株式会社は「代表取締役」という名称を主に使用します。合同会社は社長の名称について比較的自由に決めることができます。

②合同会社の方が設立費用を抑えられる

設立に係る費用は、法人を設立する際の大きなポイントとなると思います。

合同会社も株式会社もどちらも法人の設立なのですが、設立に必要な費用が違ってきます。

合同会社の設立には、登録免許税6万円のみが必要となります。

一方、株式会社は公証人手数料(定款の認証費用)5万円と登録免許税15万円で合計20万円ほどかかります。

合同会社も株式会社も定款を作成して会社の基本的なルールを定める(業務内容や会計期間、会社の所在地等)必要がありますが、株式会社はこの定款を公証役場に提出し認証をうけなければなりません。この公証役場での認証には、3~5万円ほどかかります(資本金等の額によって変わってきます)。

合同会社の場合は、定款を作成する必要はありますが、公証役場での認証を受ける必要がないため、公証人手数料がかかりません。

このように、合同会社と株式会社では設立に必要な費用が違ってきます。法人を設立したいけれど、費用はあまりかけたくないという場合は合同会社の設立を検討することをおすすめします。

(会社の設立登記を社労士へ依頼する場合や設立のときに税理士に届出の作成を依頼する場合などは、登録免許税や公証人手数料以外にも士業ヘの報酬がかかってきます)

③利益配分や会社の意思決定について

会社に利益が出たときに、その利益の一部を内部留保として会社に残し、残りの利益は出資者へ還元するという場合に合同会社と株式会社では分配の割合が違ってきます。

まず、株式会社は会社の株の持分に応じて利益を還元します。株式会社の場合は、分配の割合が持ち株に応じてということになるので、利益の分配を自由に決めるということはできません。

一方で合同会社の場合は、出資の割合に応じた利益配分をする必要はなく、社長もしくは会社の代表者が利益の分配割合を自由に決めることができます。出資金を出している人が複数いる場合でも、還元しようとするすべての利益を代表者一人へ分配することも可能です。

また、株式会社は会社の重要事項(役員報酬の変更や会計期間の変更等)を決めるときに一定数の株主の賛成が必要となります。しかし、合同会社の場合は会社の重要事項を決めるときでも一定の株主の賛成を必要とすることがなく、会社の意思決定が行いやすくなります。

合同会社の特徴

 ここまで、合資会社と株式会社の共通点と相違点を見てきましたが、合同会社のメリットをまとめると、設立費用を安く抑えつつも法人の税制優遇を受けることができる、利益配分や会社の意思決定を代表者1人で行いやすいという点が挙げられます。

 一方、合同会社の株は上場することができないため、将来、会社の株式を上場したい場合は株式会社を設立した方が良いでしょう。

株式会社の特徴

株式会社の特徴は、社会的な信用が高く大規模な事業や融資が受けやすく、また資金調達として株式の上場が可能という点です。

一方で、株式会社は合同会社と比べると設立費用がかかり、作成する書類や事務手続きも煩雑になるという点も考えられます。

今回は合同会社と株式会社の共通点や相違点、それぞれのメリット・デメリットを見てきました。合同会社と株式会社はそれぞれにメリット・デメリットがあり、どちらで設立した方が良いかは、会社の規模や事業内容等で変わってきます。

合同会社について興味がある、自分の事業は税務会計上では合同会社か株式会社どちらが良いかアドバイスを聞いてみたいという場合には、会計事務所や税理士事務所に相談をすることをおすすめします。

(今回の記事は2022年4月時点の情報をもとに作成をしております。)

法人成りのメリット・デメリット

これから事業を始めようと思っている方、あるいは事業を営んでいる方で個人事業主として営んでいくか、法人化すべきか悩んでいる方は多いのではないでしょうか?

個人事業主としてか法人として事業をしていくかどちらが有利なのかとても気になりますよね。

もちろん、個人事業主と法人でどちらが有利なのかは事業の規模や売上、事業を営んでいる本人の状況によって変わってきますが、今回は、法人成りのメリット・デメリットについてみていきたいと思います。

法人成りのメリット

①役員報酬を経費として費用計上できる

社長もしくは個人事業主が会社から給与を受け取っている場合の会計処理が法人と個人事業主では異なります。

個人事業主であっても、毎月事業のお金から給与(生活費)として引出している場合も多いかと思いますが、その生活費として引出した現金は経費として計上することができません。

一方、法人から社長が役員報酬として毎月一定額を支給されていた場合、役員報酬として支払った金額を費用として計上することができます。

個人事業主も法人も「収入-費用=所得」という考え方は同じなので、所得が少ないほど納める税額も少なくなります。そして、法人は役員報酬を費用の金額に加えることができます。

ただし、役員報酬というのは、規制が多く、毎期の会計期間開始の日から3ヶ月以内でないと役員報酬の金額を変更することはできません。毎期の会計期間開始の日から3カ月以内に決めた報酬の額を少なくとも1年間は継続して支給することになります。毎月の利益に応じて役員報酬を変更することはできません。そして、役員に毎月の金額にプラスして賞与を支給したい場合は会計期間開始の日から3カ月以内に届出を提出する必要があります。【役員報酬は変えられない!!

また、毎期の会計期間開始の日から3カ月以内に決めた役員報酬よりも多くの金額を支給しても、決めた金額を超える部分については費用として計上することはできません。

このように色々な規制はありますが、役員報酬は金額が大きくなることも多く、法人成りすることによって役員報酬を費用として計上することができれば、大きな節税効果が期待できます。

②役員報酬と個人事業主の事業所得の所得控除額の違い

先ほど役員報酬と個人事業主への給与では、費用計上できるかどうかに違いがあると言いましたが、役員報酬として会社から報酬をもらう場合と個人事業主が事業の利益を得る場合では、所得控除される金額も違ってきます。

(所得控除とは、所得税の計算をするときに、所得から一定の金額を差引くことをいい、所得控除が多くなるほど、所得金額が減額されるため節税効果が高いといえます。)

法人が役員報酬を支給すると役員(社長)は最大で195万円の所得控除を受けることができます。

(給与所得控除は、支給される給与等の額によって異なりますので、ご注意ください)

一方で、個人事業主の所得(事業の利益)の場合は、青色申告特別控除の65万円までの所得控除しか認められていません。

事業が成長しており、利益も充分に出ている企業の場合には、法人として会社を設立して、役員報酬として社長へ給与を支給し、役員報酬として支給した費用を経費として計上しつつ、役員報酬として給与を得た社長自身は、給与所得控除を有効に活用し所得の金額を抑えるという節税も効果が高いと考えられます。

③事業の赤字を繰り越しすることができる

事業の利益が赤字だった場合の赤字の繰越について個人事業主と法人とで考え方が大きく違ってきます。

法人は利益が赤字になった場合、その赤字を10年間繰り越すことができます。

1年目で100万円の赤字が出た場合、1年目の法人税がかからないということに加えて、2年目に赤字を繰り越すことができます。そのため、2年目に100万円の利益があった場合でも、1年目の赤字と相殺して利益が0円ということになります。また、赤字を繰り越せる期間は10年間で、利益が出た場合は過去の赤字の金額から相殺されます。

一方、個人事業主の場合は、事業所得と給与所得等や不動産所得等の所得を合算して所得金額を計算し、所得税の金額を算出しますが、個人事業主の合計所得金額が赤字もしくは、事業所得は赤字が出ているなどの場合でも、赤字(損失)を翌年に繰り越すことはできません。

①の役員報酬の費用計上と合わせてこちらも、法人成りによって大きな節税効果が期待できます。

④社会的な信用度が上がる

①・②は税金の面で大きなメリットを見ていきました。法人成りすることで会計的なメリットも多いですが、社会的な信用度が上がるという面もあります。

法人成りすることによって、法人名義のクレジットカードや銀行口座を作ることができるようになります。また、融資が受けやすくなったり、仕事を受注するときも法人の方がしっかりとした印象になったりします。

このように、法人成りすることで社会的な信用が上がり、より事業を拡大していきたいという場合には有利だと考えられます。

法人成りのデメリット

①法人の設立には費用が掛かる

個人事業主として事業を開始する場合には、基本的に税務署に開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を提出するだけです。

しかし、法人を設立する場合には、登記をしたり定款を作成して認証を受けたりと様々な作業が発生し、それにともなって費用もかかってきます。登記費用だけで、おおよそで20~30万円ほどで、さらに税理士や司法書士などへ依頼した場合はそれらの士業への報酬も追加でかかります。

事業を始めたばかりで資金的にあまり余裕がないという場合には、この設立費用も負担が大きくなるでしょう。

②法人住民税の均等割がかかるようになる

法人の場合は、住民税均等割として毎年、7万円前後(県・市区町村によって金額は異なります)を納付する必要があります。

この法人住民税の均等割は、事業の利益が赤字であっても納付しなければなりません。

③社会保険料の納付義務がある

個人事業主の場合は、従業員が5名以下の場合は会社として社会保険料を納付する義務はなく、その場合は従業員がそれぞれに個人年金や国民健康保険を支払います。

一方、法人は社員が役員の社長1人だけであった場合でも会社が社会保険料を納付する義務を負います。納付する社会保険料は、従業員と会社で半分ずつ負担することになっています。

また、一般的に個人で納付する国民健康保険と個人年金の金額よりも会社で納付する従業員一人当たりの社会保険の方が納付金額が高くなります。

このように、法人成りすることによって、役員や従業員の社会保険料の半分を会社で負担する必要があるため、こちらも法人成りのデメリットと言えるでしょう。

(会社が負担した分の社会保険料は、経費として費用計上することができます。)

④様々な手続や申請があり事務作業が煩雑になる

これは、③とも関係しているのですが、会社が社会保険を納付する場合は、届出なども必要となりますし、様々なメリットを受けられるようになる一方で、設立の登記や定款の作成、議事録の作成など、提出する届出や書類が多くなってきます。また、個人事業主以上に正確な会計処理や帳簿の作成なども必要になってくるため、1人だけで事業をしている場合はこれらの事務負担はかなり負担になってくると考えられます。

個人事業と法人の相違点(おまけ)

法人成りのメリット・デメリットをみてきましたが、最後に個人事業と法人の会計期間に違いを見ていきたいと思います。

まず、個人事業主の会計期間は1月1日~12月31日までで、申告・納付の期限は会計期間の翌年3月15日までです。個人事業主は、事業の利益を所得税として申告するので、一般的な確定申告の期限が申告・納付の期限となります。

一方で法人の会計期間は、任意で決めることができます。会社の設立をするときに社長が自由に会計期間を決めることができます。ただし、設立したときに決めた会計期間は原則として毎期継続して適用しなくてはいけません。会計期間を変更する場合は届出が必要となります。

また、法人の申告・納付の期限は決算日から2ヶ月以内と決められています。

4月末が決算日だった場合、2か月後の6月末が申告期限となります。

法人の決算が12月31日だった場合は、2月末が申告の期限となります。個人の所得税のように3月15日までの期限ではないのでご注意ください。

まとめ

今回は、法人成りのメリット・デメリットについて見ていきました。

はじめに述べたように、それぞれの事業の状況によって法人成りするべきかの判断はことなりますが、今回の記事がその判断の参考になれば幸いです。

また、法人成りの判定や実際に法人成りをしていく手続き、法人としての会計処理や申告などはとても複雑で、判断に迷うことも多いです。

特に、事業を始めたばかりの場合は、金銭的にも事務作業的にも法人成りが大きな負担となることも多いです。ある程度、事業が落ち着いてきた、もしくは売上が安定してきた段階で法人成りするのも良いと思います。

事業を始めようとしている、事業を始めているあるいは事業が安定してきて法人成りを検討しているという場合には、事前に会計事務所などで相談をしてみてはいかがでしょうか?

法人の損害賠償金の取扱いについて

今回は、法人である会社の損害賠償金の取扱いについてみていきたいと思います。

まずは、法人が損害賠償金を支払った場合の経理処理についてです。会社が何らかの原因で損害賠償金を支払った場合、支払ったすべての損害賠償金を損金として計上できるわけではありません。

そこで、支払った損害賠償金が損金算入できる場合と損金算入できない場合、また損金算入できる場合の損金の計上時期についてみていきたいと思います。

① 支払った損害賠償金を損金算入できる場合

 損害賠償金を損金として計上できるかどうかは、「業務に関するものか」と「会社の役員や従業員の過失によるものかどうか」がポイントとなります。損害賠償金の対象となった行為等が会社の業務の遂行に関連するもので、会社の役員や従業員に過失がない場合は支払った損害賠償金を損金として処理することができます。

② 支払った損害賠償金を損金算入できない場合

 前提として、支払った損害賠償金が法人の業務の遂行に関連するものでない場合は損金算入できません。また、業務の遂行に関係がある場合でも、会社の役員や従業員に過失が認められた場合の損害賠償金も損金算入することはできません。

このような場合の損害賠償金を会社が支払った場合には、その損害賠償の対象である法人の役員もしくは従業員への貸付金となります。

 しかし、役員もしくは従業員から損害賠償金の返済がされない場合、役員もしくは従業員に支払い能力がないと認められるときは損害賠償金分の貸付金を貸倒れ処理することができます。役員もしくは従業員に支払い能力が認められる場合にはその役員もしくは従業員への給与として処理されます。

 次に、こられの損害賠償金の損金計上時期についてみていきたいと思います。原則として、損害賠償金を支払ったときに損金を計上することが認められています。しかし、この「支払った時」以外に計上が認められている場合もあります。例えば、自動車事故等が発生した場合事故の発生から示談等までの成立に時間がかかるときは、示談等の成立前で損害賠償金の支払前であっても、その支出の日の属する事業年度の損金の額に算入することができると認められています。

 もう一つ、信号無視やスピード違反などをしたときの交通違反金についてもみていきたいと思います。役員や従業員の交通違反金を会社が支払った場合、業務上の交通違反金であっても損金計上はできません。会社の業務上で交通違反金を支払った場合は租税公課で計上し、法人税申告書で調整することになります。もし、業務外の交通違反金を会社が支払った場合は、その役員もしくは従業員への貸付もしくは給与として処理します。

 ただし、交通事故等でレッカー代や交通費などが発生した場合には、その事故が業務上のものであれば、損金として計上することができます。その事故が会社の業務外の場合は、事故等のレッカー代や交通費などを損金として計上することはできず、交通違反金と同様に当事者への貸与もしくは給与として処理することになります。

 それでは逆に、会社が損害賠償金を受取った場合の処理についても考えてみたいと思います。会社が何らかの損害を受け、損害賠償金を受取った場合は損害賠償金の確定した日もしくは支払いを受けた時に雑収入として処理します。

 このように、損害賠償金はその賠償金が業務上のものなのかによって損金として計上できるかが変わってきます。損害賠償金の支払いなどはあまり頻繁にはないものだと思いますが、支払いがあったときにはその賠償金の内容をよく検討したうえで損金計上するようにしましょう。また、損金計上する場合には賠償の内容等を記録として残しておくと税務調査等があった場合に対応しやすいでしょう。

法人設立に必要な届出は

以前の記事では、個人が事業を開始するのに必要な届出をまとめましたが、今回は法人の設立に必要な届出についてみていこうと思います。

法人を設立する場合は、個人で開業をする場合よりも届出や作成する書類が多くなります。

今回は法人を設立しようとする全員が提出する届出、必要に応じて提出する届出、個人事業主が法人を設立しようとする場合に提出する届出をそれぞれ確認していきます。

法人を設立する場合に必要な届出(共通)

法人設立届出書(税務署・都道府県・市区町村)

法人を設立する場合に必ず提出する届出です。

この届出を提出するときに添付書類として、定款の写し、設立の登記事項証明書(税務署は添付不要)、株主名簿、会社設立時の貸借対照表が必要となります。

提出期限は法人設立の日以後2月以内となっていますが、提出が遅れても罰則などはありません。

また、それぞれの都道府県や市区町村によって設立届に必要な添付書類や提出期限は違ってくるので、自分が提出しようとしている都道府県や市区町村のホームページなどを確認するようにしましょう。

法人の設立届を税務署に提出する場合は提出用とは別に届出書の控え(提出用をコピーしても問題ありません)を作成し控えの届出書に受領印をもらうようにしておくと良いでしょう。

法人名での口座開設や融資、年金の手続きなどで設立届の控えの確認が必要な場合があります。郵送で届出を提出する場合は、届出の控えと返信用封筒を同封しておきましょう。

法人を設立する場合に必要な届出(必要に応じて)

青色申告の承認申請書

こちらは、青色申告により申告を行いたい場合に提出します。

提出期限は、法人の設立の日以後3カ月を経過した日と事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までで必要な添付書類などはありません。

提出が遅れても罰則はありませんが、青色申告の承認申請書を提出しないと青色申告の優遇制度を受けられません。実際には法人設立届と一緒に青色申告の承認申請書を提出する場合が多いです。

源泉所得税の納期の特例の特例に関する申請書

給与の支払いや税理士等への報酬を支払ったときに徴収した源泉所得税を納める納付期限を徴収した翌月10日までではなく、半年ごとに納付することができる申請書です。

提出期限はありませんが、原則として届出を提出した翌月から適用となります。

この届出も法人設立届出書と一緒に提出する場合が多いです。

給与支払事務所等の開設届出書

法人が給与等を支給する場合に提出する届出書で、提出期限は事務所開設日から一カ月以内です。

個人の場合は、個人の開業届に給与等の支払の状況を記載する欄があるため、開業時には提出の必要はありませんが、法人を設立し、設立時から役員報酬や従業員の給与を支給する場合にはこの届出の提出が必要です。

法人は設立時から役員報酬や従業員の給与を支給する場合が多いため、こちらも法人設立届出書と一緒に提出する場合が多いです。

減価償却資産の償却方法の届出書

この届出は取得した減価償却資産を法定償却方法以外で償却する場合に提出する届出です。

例えば、法人の場合、工具器具備品や機械装置、車両の法定償却方法は定率法となります。しかし、この償却資産の償却方法の届出書を提出することで、定額法により償却できるようになります。

ただし、この届出はあくまで法定償却方法以外の方法で償却する場合に提出するもので、取得資産を法定償却方法で償却する場合には提出の必要はありません。

棚卸資産の評価方法の届出書

この届出は、棚卸資産を法定評価方法である最終仕入原価法以外の評価方法で評価する場合に提出する届出書です。

業種によっては、棚卸資産を最終仕入原価法以外で計算する場合があります。そのような場合は、事前に棚卸資産の評価方法の届出書の提出が必要となります。

法人を設立する場合に必要な届出(個人の事業から法人を設立した場合)

個人事業の廃業届

個人で行っていた事業を法人にする場合は、個人事業の廃業届を提出する必要があります。

こちらは、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、開業時と同じ書式に廃業の日付などを記載して税務署、都道府県、市区町村へ提出します。

こちらは、提出期限が廃業の一ヵ月以内となっています。

所得税の青色申告の取りやめ届出書

個人の事業を青色申告で行っていて、法人化した後も引き続き青色申告を行いたい場合であっても、所得税の青色申告の取りやめ届出書を提出し、法人として新たに青色申告の承認申請書を提出する必要があります。

給与支払事業所等の廃止届出書

個人事業主が給与支払事業所等の開設届出書を提出していた場合は、廃止届の提出が必要となります。

個人事業主が法人を設立した場合は、個人の事業に関する廃業届やとりやめの届出等が必要となります。

しかし、社長の所有する不動産を会社へ貸し出し、法人から家賃収入を得る場合などは、社長は不動産所得を得ることになるため、個人事業の廃業届、所得税の青色申告の取りやめ届出書は提出する必要がありません。

今回は法人の設立に必要な届出をみていきました。法人の設立には法人設立届出書の提出が必要ですが、その他にもそれぞれの会社に応じて必要な届出を提出しなければいけません。

さらに、法人を設立する場合は、今回みてきた届出以外にも社会保険関係や消費税に関する届出など提出を考慮すべき届出が他にも多くあります。

また、個人で開業していた事業を法人にする場合は個人の廃業に関する届出と法人の設立に関する届出を提出する必要があり、さらに届出の種類や内容が煩雑になってきます。

法人の設立に関する届出は、個人が事業を開業するときの届出以上に種類が多く、添付書類なども色々と必要になってきます。

法人の設立には様々な届出や書類の作成が必要となりますが、一方で、個人事業主では受けられなかった様々な税金の優遇措置を受けることができるようになります。

法人設立の届出を漏れなく提出するためにも、法人に認められている様々な優遇措置を受けるためにも法人を設立するときは、事前に会計事務所へ相談することをおすすめします。(今回の記事は2021年11月時点の情報をもとに作成をしております。)

棚卸資産の評価方法

 自社の在庫の評価をどのように行っていますか?

毎月あるいは毎期など会社ごとに決められた一定期間で在庫の数を数えて、金額を算定する企業がほとんどだと思います。在庫の数量は把握できたけれど、毎月の経理や決算月で計上する金額がわからないという場合も多いのではないでしょうか。

企業が自社にある棚卸資産の価格を算出し、棚卸資産として計上することで企業の財政状態をより正確に把握することができるようになります。

 税務上、在庫は棚卸資産といわれ決算期に資産計上しなくてはなりません。また、この棚卸資産の中には完成した商品だけではなく、製造途中の製品や製品を作るための原材料、事務用消耗品である貯蔵品なども含まれます。

ここでは、そんな棚卸資産の評価方法をみていきたいと思います。

 棚卸資産の評価方法には大きくわけて「原価法」と「低価法」の2種類があります。

原価法とは、棚卸資産の取得原価を期末棚卸資産の評価額とする方法です。

一方、低価法とは棚卸資産の時価を期末棚卸資産の評価額とする方法です。

 原価法には個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6種類があり、原価法と低価法あわせて7種類の評価方法からそれぞれの企業の実態にあった評価方法を選ぶことができます。

そこで、それぞれの評価方法について解説していきたいと思います。

個別法

棚卸資産それぞれの仕入原価を評価額として計上する方法です。

最もシンプルな評価方法ですが、個々の仕入原価を把握する必要があり商品数が多い場合や頻繁に仕入れを行う場合に事務的負担が大きくなってしまうというデメリットがあります。

先入先出法

最も古く取得されたものから順次払出しが行われると仮定し、期末の棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして棚卸資産の評価額を算定する方法です。

期末に棚卸資産の仕入原価がわかるように、仕入ごとに仕入原価を確認する必要があります。

総平均法

一定期間ごとに取得した棚卸資産の平均原価を算出し、算出された平均原価によって商品の払出単価および期末棚卸資産の評価額を算定する方法をいいます。

期末に棚卸資産の平均原価がわかるように、仕入の都度、平均原価を算出する必要があります。

移動平均法

商品を仕入れた都度、保有する棚卸資産の平均原価を算出し、算出された平均原価によって棚卸資産の評価額を算定する方法をいいます。

最終原価仕入法

期末時点の一番近い日に仕入れた金額を原価として原価×在庫数で棚卸資産を計算する方法です。

毎回の仕入価格を考慮する必要がないため、事務的負担が比較的少なく企業で最も採用されている方法です。しかし、直近での仕入価格と時価との差額が大きい場合は、適切な評価金額が算定されないというデメリットもあります。

売価還元法

百貨店やスーパーなど数多くの商品を取り扱っている小売業で多く採用されています。

商品を種類ごとにいくつかのグループに分けてそのグループごとの原価率を算定します。その算定した原価率×商品グループの売価で棚卸資産の評価額を算定する方法です。

低価法

棚卸資産の時価を評価額とする方法です。

原価法である個別法や最終原価仕入法、売価還元法などで算定された商品の評価額が時価よりも高い場合に選択されます。デメリットとして、時価の把握が難しい棚卸資産には適用できないという点が挙げられます。

 以上のように、棚卸資産の評価方法はいくつかありますが、それぞれの企業の業態や棚卸資産の特徴を考慮した上でもっとも適した評価方法を選ぶことが重要となってきます。また、税務上毎期それぞれ違う評価方法を選ぶということは認められておらず、税法上『一旦採用した棚卸資産の評価の方法は特別の事情がない限り継続して適用すべきもの』とされています。

 毎期継続した評価方法で評価額を算定することは、評価方法を変えることで利益操作を行うことを防ぐ目的があります。加えて、税法上の法定評価方法である最終仕入原価法以外の評価方法を採用する場合は「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出し、原則3年以上の継続適用をしなければなりません。