税金

棚卸資産の評価について

 今回は、保有している棚卸資産の評価について確認していきたいと思います。

棚卸資産とは、完成している商品や製造途中の製品や製品の原材料、事務用消耗品である貯蔵品などのことをいいます。

前回の記事では、棚卸資産の評価方法としては7種類あり、その7種類のうちから、各企業が自分の会社に合った方法で棚卸資産の評価をするということを確認しました。

 棚卸資産は、基本的に取得価格を基準として各企業が選択した評価方法によって評価額を算定します。この時に、取得価格と評価時点での棚卸資産の価格があまりにも異なっていた場合、適正な資産額を把握することができません。

例えば、10年前に原材料としてパソコンを購入したとします。そのパソコンを現在でも原材料として保有している場合、現在では10年前のパソコンに10万円の価値はなくなってしまっている場合が多いですよね。

 このように、購入したときの価格と評価する時点での価格に大きな差が生じている場合に購入時の取得価格のままで棚卸資産として計上してしまうと、企業の正確な資産の把握ができなくなってしまいます。

そこで、棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より小さい場合と棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より大きい場合に分けて考えていきます。

 まず、棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より小さい場合についてです。

10万円で購入した材料が、評価時点で15万円になっていたというような場合ですが、このようなときは基本的には評価益は計上しません。会計上、棚卸資産に評価益がある場合は、その商品を販売したときに利益が確定するため、評価時点での益は計上しないということになっています。

 次に、棚卸資産の取得価格が評価時点での価格より大きい場合についてです。

10万円で購入した材料が、評価時点で2万円になってしまったというような場合ですね。

保有している棚卸資産の時価が評価額よりも大きく下回っていた場合、実際の価格は低いにもかかわらず、貸借対照表上では取得価格をもとに算定された評価額が計上されてしまいます。これでは、企業の正確な財政状態を把握できなくなってしまいます。そのよう場合には、税務上、棚卸資産の評価損を計上することが認められています。

しかし、取得価格と評価時点での価格に評価損がでればすべて損金として計上できるというわけではなく、評価損の扱いについては法人税法で定められています。

税法上、棚卸資産の評価損の計上が認められているのは主に次の3つです。

災害により著しく損傷したこと

→台風や地震などの自然災害により商品に損害がでてしまったときなどに認められます。

著しく陳腐化したこと

→いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであることや商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったことなどが考えられます。〔法人税法基本通達9-1-4

その他準ずる事実が発生した場合

→例えば、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことなどが挙げられます。〔法人税法基本通達9-1-5

法人税法第33条第2項

このように①~③の事実に該当するときは、税務上、棚卸資産の評価損を損金として計上できます。

 しかし、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下したなどの理由では損金に計上できないので注意が必要です。

商品の型式が古くなった場合や新性能の商品が発売されたことにより旧性能の商品の販売価格が下がってしまったなど場合は評価損の計上が認められます。

一方で、過剰に生産したため販売価格が下がったり、他社との値下げ競争のため商品の価格が下がったりしたような場合には評価損の計上は認められません。

 つまり、棚卸資産の評価損を計上するためには、価格がいくら下がったのかよりもなぜ価格を下げたのかという理由が重要となってきます。評価損を計上した場合には、その値下げの合理的な理由を証明できるように書類等を保存しておいた方が良いでしょう。

 以上のように、棚卸資産の評価益については原則計上しない、評価損については税法上認められている部分については評価損を計上できるということがわかりました。

長期間保有している材料や売れ残っている製品などは取得価格と評価時点での価格に差がある場合も多いかと思われます。そんな時は、税法上で認められる範囲で評価損を計上し、適切な棚卸資産の価格を把握するようにしましょう。

合同会社と株式会社の違い

個人事業主として営んでいる事業を法人化して色々な税制優遇を受けたいという場合や法人を設立したいけれど費用面が心配だという場合に、【合同会社】を設立するという方法があります。

正確には、法人には「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」の4種類がありどの種類で設立するか選ぶことができます。

今回はその中でも、設立されることが多い「合同会社」と「株式会社」を比較してみようと思います。

合同会社とは、アメリカではLLCと言われている会社の形態で、日本では2006年から制定されました。代表的な企業名としては、Appleやアマゾン、グーグルなどの世界的な大企業が日本では合同会社の形態で日本法人を設立しています。

今回は、最近、設立が増えてきている合同会社と一般的な形態である株式会社の共通点や相違点、それぞれのメリットやデメリットを見ていこうと思います。

合同会社と株式会社の共通点

①決算・申告・納付について

合同会社も株式会社も年に1回企業の利益を計算し、確定申告書を作成、利益に応じて法人税・地方税・消費税等を納付する義務が生じます。

決算書や申告書の書式や作成方法、提出や納付の期限については合同会社も株式会社も違いはありません。

また、決算月を定款で自由に定めることができるというのも共通です。

(ただし、定款で定めた決算月は原則として変更はできません)

②法人の税制優遇について

基本的に合同会社であっても株式会社であっても法人であることには変わりないため、受けられる税制優遇に違いはありません。法人化の大きなメリットである役員報酬の費用計上や赤字を繰り越せるなどの優遇制度は合同会社でも株式会社でも適用をうけることができます。

③社会保障への加入義務

法人の場合は役員が一人の会社であっても社会保険の加入が義務付けられていますが、こちらも合同会社であっても株式会社であっても違いはありません。

役員一人のみで合同会社を設立した場合でも、社会保険へは加入しなければなりません。

合同会社と株式会社の相違点

①会社の商号と代表社員の名称

合同会社と株式会社の大きな違いの一つが会社の商号と代表者の名称です。

合同会社の場合は「〇〇合同会社」、株式会社の場合は「☆☆株式会社」という商号になり合同会社が株式会社の商号を付けることはできません。

また、社長の名称も合同会社は「代表・社長」等、株式会社は「代表取締役」という名称を主に使用します。合同会社は社長の名称について比較的自由に決めることができます。

②合同会社の方が設立費用を抑えられる

設立に係る費用は、法人を設立する際の大きなポイントとなると思います。

合同会社も株式会社もどちらも法人の設立なのですが、設立に必要な費用が違ってきます。

合同会社の設立には、登録免許税6万円のみが必要となります。

一方、株式会社は公証人手数料(定款の認証費用)5万円と登録免許税15万円で合計20万円ほどかかります。

合同会社も株式会社も定款を作成して会社の基本的なルールを定める(業務内容や会計期間、会社の所在地等)必要がありますが、株式会社はこの定款を公証役場に提出し認証をうけなければなりません。この公証役場での認証には、3~5万円ほどかかります(資本金等の額によって変わってきます)。

合同会社の場合は、定款を作成する必要はありますが、公証役場での認証を受ける必要がないため、公証人手数料がかかりません。

このように、合同会社と株式会社では設立に必要な費用が違ってきます。法人を設立したいけれど、費用はあまりかけたくないという場合は合同会社の設立を検討することをおすすめします。

(会社の設立登記を社労士へ依頼する場合や設立のときに税理士に届出の作成を依頼する場合などは、登録免許税や公証人手数料以外にも士業ヘの報酬がかかってきます)

③利益配分や会社の意思決定について

会社に利益が出たときに、その利益の一部を内部留保として会社に残し、残りの利益は出資者へ還元するという場合に合同会社と株式会社では分配の割合が違ってきます。

まず、株式会社は会社の株の持分に応じて利益を還元します。株式会社の場合は、分配の割合が持ち株に応じてということになるので、利益の分配を自由に決めるということはできません。

一方で合同会社の場合は、出資の割合に応じた利益配分をする必要はなく、社長もしくは会社の代表者が利益の分配割合を自由に決めることができます。出資金を出している人が複数いる場合でも、還元しようとするすべての利益を代表者一人へ分配することも可能です。

また、株式会社は会社の重要事項(役員報酬の変更や会計期間の変更等)を決めるときに一定数の株主の賛成が必要となります。しかし、合同会社の場合は会社の重要事項を決めるときでも一定の株主の賛成を必要とすることがなく、会社の意思決定が行いやすくなります。

合同会社の特徴

 ここまで、合資会社と株式会社の共通点と相違点を見てきましたが、合同会社のメリットをまとめると、設立費用を安く抑えつつも法人の税制優遇を受けることができる、利益配分や会社の意思決定を代表者1人で行いやすいという点が挙げられます。

 一方、合同会社の株は上場することができないため、将来、会社の株式を上場したい場合は株式会社を設立した方が良いでしょう。

株式会社の特徴

株式会社の特徴は、社会的な信用が高く大規模な事業や融資が受けやすく、また資金調達として株式の上場が可能という点です。

一方で、株式会社は合同会社と比べると設立費用がかかり、作成する書類や事務手続きも煩雑になるという点も考えられます。

今回は合同会社と株式会社の共通点や相違点、それぞれのメリット・デメリットを見てきました。合同会社と株式会社はそれぞれにメリット・デメリットがあり、どちらで設立した方が良いかは、会社の規模や事業内容等で変わってきます。

合同会社について興味がある、自分の事業は税務会計上では合同会社か株式会社どちらが良いかアドバイスを聞いてみたいという場合には、会計事務所や税理士事務所に相談をすることをおすすめします。

(今回の記事は2022年4月時点の情報をもとに作成をしております。)

法人成りのメリット・デメリット

これから事業を始めようと思っている方、あるいは事業を営んでいる方で個人事業主として営んでいくか、法人化すべきか悩んでいる方は多いのではないでしょうか?

個人事業主としてか法人として事業をしていくかどちらが有利なのかとても気になりますよね。

もちろん、個人事業主と法人でどちらが有利なのかは事業の規模や売上、事業を営んでいる本人の状況によって変わってきますが、今回は、法人成りのメリット・デメリットについてみていきたいと思います。

法人成りのメリット

①役員報酬を経費として費用計上できる

社長もしくは個人事業主が会社から給与を受け取っている場合の会計処理が法人と個人事業主では異なります。

個人事業主であっても、毎月事業のお金から給与(生活費)として引出している場合も多いかと思いますが、その生活費として引出した現金は経費として計上することができません。

一方、法人から社長が役員報酬として毎月一定額を支給されていた場合、役員報酬として支払った金額を費用として計上することができます。

個人事業主も法人も「収入-費用=所得」という考え方は同じなので、所得が少ないほど納める税額も少なくなります。そして、法人は役員報酬を費用の金額に加えることができます。

ただし、役員報酬というのは、規制が多く、毎期の会計期間開始の日から3ヶ月以内でないと役員報酬の金額を変更することはできません。毎期の会計期間開始の日から3カ月以内に決めた報酬の額を少なくとも1年間は継続して支給することになります。毎月の利益に応じて役員報酬を変更することはできません。そして、役員に毎月の金額にプラスして賞与を支給したい場合は会計期間開始の日から3カ月以内に届出を提出する必要があります。【役員報酬は変えられない!!

また、毎期の会計期間開始の日から3カ月以内に決めた役員報酬よりも多くの金額を支給しても、決めた金額を超える部分については費用として計上することはできません。

このように色々な規制はありますが、役員報酬は金額が大きくなることも多く、法人成りすることによって役員報酬を費用として計上することができれば、大きな節税効果が期待できます。

②役員報酬と個人事業主の事業所得の所得控除額の違い

先ほど役員報酬と個人事業主への給与では、費用計上できるかどうかに違いがあると言いましたが、役員報酬として会社から報酬をもらう場合と個人事業主が事業の利益を得る場合では、所得控除される金額も違ってきます。

(所得控除とは、所得税の計算をするときに、所得から一定の金額を差引くことをいい、所得控除が多くなるほど、所得金額が減額されるため節税効果が高いといえます。)

法人が役員報酬を支給すると役員(社長)は最大で195万円の所得控除を受けることができます。

(給与所得控除は、支給される給与等の額によって異なりますので、ご注意ください)

一方で、個人事業主の所得(事業の利益)の場合は、青色申告特別控除の65万円までの所得控除しか認められていません。

事業が成長しており、利益も充分に出ている企業の場合には、法人として会社を設立して、役員報酬として社長へ給与を支給し、役員報酬として支給した費用を経費として計上しつつ、役員報酬として給与を得た社長自身は、給与所得控除を有効に活用し所得の金額を抑えるという節税も効果が高いと考えられます。

③事業の赤字を繰り越しすることができる

事業の利益が赤字だった場合の赤字の繰越について個人事業主と法人とで考え方が大きく違ってきます。

法人は利益が赤字になった場合、その赤字を10年間繰り越すことができます。

1年目で100万円の赤字が出た場合、1年目の法人税がかからないということに加えて、2年目に赤字を繰り越すことができます。そのため、2年目に100万円の利益があった場合でも、1年目の赤字と相殺して利益が0円ということになります。また、赤字を繰り越せる期間は10年間で、利益が出た場合は過去の赤字の金額から相殺されます。

一方、個人事業主の場合は、事業所得と給与所得等や不動産所得等の所得を合算して所得金額を計算し、所得税の金額を算出しますが、個人事業主の合計所得金額が赤字もしくは、事業所得は赤字が出ているなどの場合でも、赤字(損失)を翌年に繰り越すことはできません。

①の役員報酬の費用計上と合わせてこちらも、法人成りによって大きな節税効果が期待できます。

④社会的な信用度が上がる

①・②は税金の面で大きなメリットを見ていきました。法人成りすることで会計的なメリットも多いですが、社会的な信用度が上がるという面もあります。

法人成りすることによって、法人名義のクレジットカードや銀行口座を作ることができるようになります。また、融資が受けやすくなったり、仕事を受注するときも法人の方がしっかりとした印象になったりします。

このように、法人成りすることで社会的な信用が上がり、より事業を拡大していきたいという場合には有利だと考えられます。

法人成りのデメリット

①法人の設立には費用が掛かる

個人事業主として事業を開始する場合には、基本的に税務署に開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を提出するだけです。

しかし、法人を設立する場合には、登記をしたり定款を作成して認証を受けたりと様々な作業が発生し、それにともなって費用もかかってきます。登記費用だけで、おおよそで20~30万円ほどで、さらに税理士や司法書士などへ依頼した場合はそれらの士業への報酬も追加でかかります。

事業を始めたばかりで資金的にあまり余裕がないという場合には、この設立費用も負担が大きくなるでしょう。

②法人住民税の均等割がかかるようになる

法人の場合は、住民税均等割として毎年、7万円前後(県・市区町村によって金額は異なります)を納付する必要があります。

この法人住民税の均等割は、事業の利益が赤字であっても納付しなければなりません。

③社会保険料の納付義務がある

個人事業主の場合は、従業員が5名以下の場合は会社として社会保険料を納付する義務はなく、その場合は従業員がそれぞれに個人年金や国民健康保険を支払います。

一方、法人は社員が役員の社長1人だけであった場合でも会社が社会保険料を納付する義務を負います。納付する社会保険料は、従業員と会社で半分ずつ負担することになっています。

また、一般的に個人で納付する国民健康保険と個人年金の金額よりも会社で納付する従業員一人当たりの社会保険の方が納付金額が高くなります。

このように、法人成りすることによって、役員や従業員の社会保険料の半分を会社で負担する必要があるため、こちらも法人成りのデメリットと言えるでしょう。

(会社が負担した分の社会保険料は、経費として費用計上することができます。)

④様々な手続や申請があり事務作業が煩雑になる

これは、③とも関係しているのですが、会社が社会保険を納付する場合は、届出なども必要となりますし、様々なメリットを受けられるようになる一方で、設立の登記や定款の作成、議事録の作成など、提出する届出や書類が多くなってきます。また、個人事業主以上に正確な会計処理や帳簿の作成なども必要になってくるため、1人だけで事業をしている場合はこれらの事務負担はかなり負担になってくると考えられます。

個人事業と法人の相違点(おまけ)

法人成りのメリット・デメリットをみてきましたが、最後に個人事業と法人の会計期間に違いを見ていきたいと思います。

まず、個人事業主の会計期間は1月1日~12月31日までで、申告・納付の期限は会計期間の翌年3月15日までです。個人事業主は、事業の利益を所得税として申告するので、一般的な確定申告の期限が申告・納付の期限となります。

一方で法人の会計期間は、任意で決めることができます。会社の設立をするときに社長が自由に会計期間を決めることができます。ただし、設立したときに決めた会計期間は原則として毎期継続して適用しなくてはいけません。会計期間を変更する場合は届出が必要となります。

また、法人の申告・納付の期限は決算日から2ヶ月以内と決められています。

4月末が決算日だった場合、2か月後の6月末が申告期限となります。

法人の決算が12月31日だった場合は、2月末が申告の期限となります。個人の所得税のように3月15日までの期限ではないのでご注意ください。

まとめ

今回は、法人成りのメリット・デメリットについて見ていきました。

はじめに述べたように、それぞれの事業の状況によって法人成りするべきかの判断はことなりますが、今回の記事がその判断の参考になれば幸いです。

また、法人成りの判定や実際に法人成りをしていく手続き、法人としての会計処理や申告などはとても複雑で、判断に迷うことも多いです。

特に、事業を始めたばかりの場合は、金銭的にも事務作業的にも法人成りが大きな負担となることも多いです。ある程度、事業が落ち着いてきた、もしくは売上が安定してきた段階で法人成りするのも良いと思います。

事業を始めようとしている、事業を始めているあるいは事業が安定してきて法人成りを検討しているという場合には、事前に会計事務所などで相談をしてみてはいかがでしょうか?

法人の損害賠償金の取扱いについて

今回は、法人である会社の損害賠償金の取扱いについてみていきたいと思います。

まずは、法人が損害賠償金を支払った場合の経理処理についてです。会社が何らかの原因で損害賠償金を支払った場合、支払ったすべての損害賠償金を損金として計上できるわけではありません。

そこで、支払った損害賠償金が損金算入できる場合と損金算入できない場合、また損金算入できる場合の損金の計上時期についてみていきたいと思います。

① 支払った損害賠償金を損金算入できる場合

 損害賠償金を損金として計上できるかどうかは、「業務に関するものか」と「会社の役員や従業員の過失によるものかどうか」がポイントとなります。損害賠償金の対象となった行為等が会社の業務の遂行に関連するもので、会社の役員や従業員に過失がない場合は支払った損害賠償金を損金として処理することができます。

② 支払った損害賠償金を損金算入できない場合

 前提として、支払った損害賠償金が法人の業務の遂行に関連するものでない場合は損金算入できません。また、業務の遂行に関係がある場合でも、会社の役員や従業員に過失が認められた場合の損害賠償金も損金算入することはできません。

このような場合の損害賠償金を会社が支払った場合には、その損害賠償の対象である法人の役員もしくは従業員への貸付金となります。

 しかし、役員もしくは従業員から損害賠償金の返済がされない場合、役員もしくは従業員に支払い能力がないと認められるときは損害賠償金分の貸付金を貸倒れ処理することができます。役員もしくは従業員に支払い能力が認められる場合にはその役員もしくは従業員への給与として処理されます。

 次に、こられの損害賠償金の損金計上時期についてみていきたいと思います。原則として、損害賠償金を支払ったときに損金を計上することが認められています。しかし、この「支払った時」以外に計上が認められている場合もあります。例えば、自動車事故等が発生した場合事故の発生から示談等までの成立に時間がかかるときは、示談等の成立前で損害賠償金の支払前であっても、その支出の日の属する事業年度の損金の額に算入することができると認められています。

 もう一つ、信号無視やスピード違反などをしたときの交通違反金についてもみていきたいと思います。役員や従業員の交通違反金を会社が支払った場合、業務上の交通違反金であっても損金計上はできません。会社の業務上で交通違反金を支払った場合は租税公課で計上し、法人税申告書で調整することになります。もし、業務外の交通違反金を会社が支払った場合は、その役員もしくは従業員への貸付もしくは給与として処理します。

 ただし、交通事故等でレッカー代や交通費などが発生した場合には、その事故が業務上のものであれば、損金として計上することができます。その事故が会社の業務外の場合は、事故等のレッカー代や交通費などを損金として計上することはできず、交通違反金と同様に当事者への貸与もしくは給与として処理することになります。

 それでは逆に、会社が損害賠償金を受取った場合の処理についても考えてみたいと思います。会社が何らかの損害を受け、損害賠償金を受取った場合は損害賠償金の確定した日もしくは支払いを受けた時に雑収入として処理します。

 このように、損害賠償金はその賠償金が業務上のものなのかによって損金として計上できるかが変わってきます。損害賠償金の支払いなどはあまり頻繁にはないものだと思いますが、支払いがあったときにはその賠償金の内容をよく検討したうえで損金計上するようにしましょう。また、損金計上する場合には賠償の内容等を記録として残しておくと税務調査等があった場合に対応しやすいでしょう。

「ギャラ飲み」の確定申告について

最近、「ギャラ飲み」という言葉を良く聞くようになりました。

「ギャラ飲み」の仲介をする専用アプリがあり、誰でも簡単にギャラ飲みに参加できるようになり、副業やお小遣い稼ぎとして「ギャラ飲み」で収入を得ているという方も増えてきているのではないでしょうか。

最近のギャラ飲みは、参加する女性も男性もギャラ飲み専用の仲介アプリを使うことが多く、男性がアプリに謝礼としてお金を支払い、参加した女性が謝礼としてアプリからお金を受取るという仕組みが多いようです。

アプリを通してのお金のやり取りなので直接現金をやり取りするよりも安心できる、アプリを使ってギャラ飲みの情報を簡単に調べられる、アプリの運営から様々なサポートがあるなど、誰でも気軽にギャラ飲みに参加しやすくなってきています。

そこで、今回はギャラ飲みで得たお金(謝礼)は、確定申告が必要なのか、ギャラ飲みの収入を申告しなかった場合にどのような問題があるのか、ギャラ飲みで得た収入が税務署に発覚することがあるのか、といったギャラ飲みで得たお金の確定申告ついてみていこうと思います。

「ギャラ飲み」で得たお金は確定申告が必要なのか?

結論から言うと、「確定申告が必要な場合がある」ということになります。

では、どのような人が確定申告をする必要があるのか詳しく見ていきたいと思います。

「ギャラ飲み」の所得を申告する必要があるのは、下記の①・②のどちらかにあてはまる方です。

①本業(年末調整をしている)+副業(ギャラ飲み等)の年間所得が20万円超の方

本業の会社で年末調整をしていて、ギャラ飲みなどの副業の所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。

「所得」というのは「収入(貰ったお金)」から「経費」を引いた金額のことを言います。

つまり、20万円以上お金をも貰っていた場合でも、経費を引いた残りの利益が20万円以下だった場合、会社員の方は確定申告の必要はありません。

ここでもう一つ注意しなければならないのは、副業の所得はすべて合算して計算するということです。たとえば、副業としての「ギャラ飲み」での所得が15万円+「食品の配送(ウーバーイーツ等)」での所得が15万円だった場合に、「ギャラ飲み」で得た所得と「食品の配達」で得た所得はそれぞれでは15万円ですが、合計すると30万円となるため、会社員の方でも確定申告が必要となります。

会社で働きながら、いくつかの副業で収入を得ているという場合も多いと思います。その場合はそれぞれの副業の収入や経費をまとめておいて、1年が終わったら年間(1/1~12/31)の所得を計算し自分が確定申告をする必要があるか確認するようにしましょう。【会社員の副業と確定申告

②ギャラ飲みが本業でギャラ飲みの年間所得が48万円超の方

こちらは、ギャラ飲みを本業として収入を得ている場合です。

収入がギャラ飲みだけの場合には、年間(1/1~12/31)の所得が48万円超の場合に確定申告が必要となります。

「収入(貰ったお金)」から「経費」を引いた所得金額が48万円以下の場合は確定申告の必要はありません。

「ギャラ飲み」で得たお金を申告しなかったらどうなるのか?

上記ではギャラ飲みで収入を得たときに確定申告が必要な場合を詳しくみてきましたが、次はギャラ飲みで得た所得を申告しなかった場合はどうなるのかを見ていきたいと思います。

ギャラ飲みの所得を申告しなかった場合、「無申告加算税」もしくは「重加算税」と「延滞税」などがかかります。

①無申告加算税

無申告加算税とは、名前の通り、無申告だった場合に加算される税金のことです。

50万円までの部分に15%、50万円を超える部分に20%の加算税がかかります。

本来納めるべき所得税が100万円だった場合は、

(50万円×15%)+(50万円×20%)=17.5万円となります。

つまり、本来納めるべき所得税100万円に加算に17.5万円を加算して納付しなければなりません。

②重加算税

重加算税とは、税金のペナルティの中で最も重いとされているペナルティと言われています。所得があったものの、申告していなかった場合は①の無申告加算税が課されますが、故意に「隠ぺい・仮装などの行為」によって、所得を隠していたと判断された場合には、無申告加算税の代わりに重加算税が加算されます。この重加算税の計算方法は状況によって異なりますが、最大で本来納めるべき税額×40%が加算される場合があります。

しかし、申告していなかったからといって、必ず重加算税が加算されるとは限りません。

個人の状況や税務調査への協力、証拠となる資料など様々な状況を考慮して判断されます。

また、①の無申告加算税と重加算税が同時に加算されることはありません。申告をしていなかった場合には、無申告加算税か重加算税のどちらかが加算されます。

③延滞税

延滞税とは、本来納めるべき税金を決められている期限までに納付しなかった場合に加算される加算税のことをいいます。所得税の場合は、原則3月15日までに申告と納付をしなければなりません。

納付の期限までに税金を納めなかった場合には、納付の期限から2カ月を経過する日までは原則として年7.3%、2カ月を経過した日以後は原則として14.6%の延滞税が加算されます。(延滞税の計算は大変複雑で、他にも加算される場合がありますが、今回は延滞税の基本的な利率のみを説明していきます。)

つまり、去年申告をしておらず、本来納付すべき所得税100万円を1年間納付していなかった場合は、

①100万円×7.3%×2/12=約1.2万円

②100万円×14.6%×10/12=約12,1万円

①+②=約13.3万円

本来納める税金に約13万円を加算して納付しなければなりません。

もちろん、延滞税は納付をしていなかった期間が長ければ長いほど加算される税額が大きくなります。

このように、ギャラ飲みで得た収入を申告していなかったことが発覚した場合、本来納めるべき税金に加えて、無申告加算税もしくは重加算税、加えて延滞税などの様々な加算税を納付しなければいけません。

本来納めるべき所得税に加算税を加えた高額な税金を納めなければならないという事態を避けるためにも、自分が確定申告をする必要があるかしっかり確認しましょう。

「ギャラ飲み」で得たお金を申告しないと税務署にバレるのか?

上記では、ギャラ飲みの所得を申告しなかった場合のペナルティについて説明しましたが、ギャラ飲みでお金(謝礼)を貰っても、税務署にバレないのではないか?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、最近はギャラ飲みをギャラ飲みの仲介アプリを通して行っている場合が多く、そのような場合は、アプリを運営する会社に税務署の調査が入り、報酬を受け取った側が申告をしているかチェックすることがあります。また、アプリや仲介の会社ではなくても、ギャラ飲みの仲介をしている個人に税務署から調査が入り、そこからギャラ飲みの謝礼として支払ったお金を受取った側がきちんと申告しているかチェックされる可能性もあります。

特に、近年は税務署もギャラ飲みをはじめとする副収入の申告について厳しくチェックしている傾向があります。

自分ではお小遣いのような感覚で貰っているお金かもしれませんが、仲介会社や支払先などの調査から所得が発覚する可能性は十分にあります。

まとめ

ギャラ飲みの収入があった場合に、確定申告をしなければいけない所得の金額というのは各個人の状況(会社員や個人事業主等)によって変わってきます。

また、何年も申告をしていなかった場合には、原則としては過去3年分(最大過去7年分)まで所得を調べて本来納めるべき税金とそれに係る加算税の計算がされます。

しかし、申告期間を過ぎてからでも自分から申告・納付をすれば加算税が減額される可能性があったり、期限を過ぎた場合であってもできるだけ早く申告・納付をすることで延滞税が加算される期間が短くなったりするため、基本的に自分から申告をすることが大切です。

過去にギャラ飲みなどの副業を得ていたけれど申告していなかったという方や、副業としてギャラ飲みなどの収入を得たけれど、どのように確定申告したらよいかわからないという場合は、ぜひ税理士へ相談してみてはいかがでしょうか?

注意点

今回の内容はあくまでも所得税法上での場合になります。市区町村に納めている住民税については、金額にかかわらず所得がある場合には申告をする必要がありまのでご注意ください。また、ふるさと納税(ワンストップ特例適用外)や医療費控除、住宅ローン控除の適用を受ける場合は副業の金額に関係なく所得を申告しなければいけません。

法人設立に必要な届出は

以前の記事では、個人が事業を開始するのに必要な届出をまとめましたが、今回は法人の設立に必要な届出についてみていこうと思います。

法人を設立する場合は、個人で開業をする場合よりも届出や作成する書類が多くなります。

今回は法人を設立しようとする全員が提出する届出、必要に応じて提出する届出、個人事業主が法人を設立しようとする場合に提出する届出をそれぞれ確認していきます。

法人を設立する場合に必要な届出(共通)

法人設立届出書(税務署・都道府県・市区町村)

法人を設立する場合に必ず提出する届出です。

この届出を提出するときに添付書類として、定款の写し、設立の登記事項証明書(税務署は添付不要)、株主名簿、会社設立時の貸借対照表が必要となります。

提出期限は法人設立の日以後2月以内となっていますが、提出が遅れても罰則などはありません。

また、それぞれの都道府県や市区町村によって設立届に必要な添付書類や提出期限は違ってくるので、自分が提出しようとしている都道府県や市区町村のホームページなどを確認するようにしましょう。

法人の設立届を税務署に提出する場合は提出用とは別に届出書の控え(提出用をコピーしても問題ありません)を作成し控えの届出書に受領印をもらうようにしておくと良いでしょう。

法人名での口座開設や融資、年金の手続きなどで設立届の控えの確認が必要な場合があります。郵送で届出を提出する場合は、届出の控えと返信用封筒を同封しておきましょう。

法人を設立する場合に必要な届出(必要に応じて)

青色申告の承認申請書

こちらは、青色申告により申告を行いたい場合に提出します。

提出期限は、法人の設立の日以後3カ月を経過した日と事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までで必要な添付書類などはありません。

提出が遅れても罰則はありませんが、青色申告の承認申請書を提出しないと青色申告の優遇制度を受けられません。実際には法人設立届と一緒に青色申告の承認申請書を提出する場合が多いです。

源泉所得税の納期の特例の特例に関する申請書

給与の支払いや税理士等への報酬を支払ったときに徴収した源泉所得税を納める納付期限を徴収した翌月10日までではなく、半年ごとに納付することができる申請書です。

提出期限はありませんが、原則として届出を提出した翌月から適用となります。

この届出も法人設立届出書と一緒に提出する場合が多いです。

給与支払事務所等の開設届出書

法人が給与等を支給する場合に提出する届出書で、提出期限は事務所開設日から一カ月以内です。

個人の場合は、個人の開業届に給与等の支払の状況を記載する欄があるため、開業時には提出の必要はありませんが、法人を設立し、設立時から役員報酬や従業員の給与を支給する場合にはこの届出の提出が必要です。

法人は設立時から役員報酬や従業員の給与を支給する場合が多いため、こちらも法人設立届出書と一緒に提出する場合が多いです。

減価償却資産の償却方法の届出書

この届出は取得した減価償却資産を法定償却方法以外で償却する場合に提出する届出です。

例えば、法人の場合、工具器具備品や機械装置、車両の法定償却方法は定率法となります。しかし、この償却資産の償却方法の届出書を提出することで、定額法により償却できるようになります。

ただし、この届出はあくまで法定償却方法以外の方法で償却する場合に提出するもので、取得資産を法定償却方法で償却する場合には提出の必要はありません。

棚卸資産の評価方法の届出書

この届出は、棚卸資産を法定評価方法である最終仕入原価法以外の評価方法で評価する場合に提出する届出書です。

業種によっては、棚卸資産を最終仕入原価法以外で計算する場合があります。そのような場合は、事前に棚卸資産の評価方法の届出書の提出が必要となります。

法人を設立する場合に必要な届出(個人の事業から法人を設立した場合)

個人事業の廃業届

個人で行っていた事業を法人にする場合は、個人事業の廃業届を提出する必要があります。

こちらは、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、開業時と同じ書式に廃業の日付などを記載して税務署、都道府県、市区町村へ提出します。

こちらは、提出期限が廃業の一ヵ月以内となっています。

所得税の青色申告の取りやめ届出書

個人の事業を青色申告で行っていて、法人化した後も引き続き青色申告を行いたい場合であっても、所得税の青色申告の取りやめ届出書を提出し、法人として新たに青色申告の承認申請書を提出する必要があります。

給与支払事業所等の廃止届出書

個人事業主が給与支払事業所等の開設届出書を提出していた場合は、廃止届の提出が必要となります。

個人事業主が法人を設立した場合は、個人の事業に関する廃業届やとりやめの届出等が必要となります。

しかし、社長の所有する不動産を会社へ貸し出し、法人から家賃収入を得る場合などは、社長は不動産所得を得ることになるため、個人事業の廃業届、所得税の青色申告の取りやめ届出書は提出する必要がありません。

今回は法人の設立に必要な届出をみていきました。法人の設立には法人設立届出書の提出が必要ですが、その他にもそれぞれの会社に応じて必要な届出を提出しなければいけません。

さらに、法人を設立する場合は、今回みてきた届出以外にも社会保険関係や消費税に関する届出など提出を考慮すべき届出が他にも多くあります。

また、個人で開業していた事業を法人にする場合は個人の廃業に関する届出と法人の設立に関する届出を提出する必要があり、さらに届出の種類や内容が煩雑になってきます。

法人の設立に関する届出は、個人が事業を開業するときの届出以上に種類が多く、添付書類なども色々と必要になってきます。

法人の設立には様々な届出や書類の作成が必要となりますが、一方で、個人事業主では受けられなかった様々な税金の優遇措置を受けることができるようになります。

法人設立の届出を漏れなく提出するためにも、法人に認められている様々な優遇措置を受けるためにも法人を設立するときは、事前に会計事務所へ相談することをおすすめします。(今回の記事は2021年11月時点の情報をもとに作成をしております。)

棚卸資産の評価方法

 自社の在庫の評価をどのように行っていますか?

毎月あるいは毎期など会社ごとに決められた一定期間で在庫の数を数えて、金額を算定する企業がほとんどだと思います。在庫の数量は把握できたけれど、毎月の経理や決算月で計上する金額がわからないという場合も多いのではないでしょうか。

企業が自社にある棚卸資産の価格を算出し、棚卸資産として計上することで企業の財政状態をより正確に把握することができるようになります。

 税務上、在庫は棚卸資産といわれ決算期に資産計上しなくてはなりません。また、この棚卸資産の中には完成した商品だけではなく、製造途中の製品や製品を作るための原材料、事務用消耗品である貯蔵品なども含まれます。

ここでは、そんな棚卸資産の評価方法をみていきたいと思います。

 棚卸資産の評価方法には大きくわけて「原価法」と「低価法」の2種類があります。

原価法とは、棚卸資産の取得原価を期末棚卸資産の評価額とする方法です。

一方、低価法とは棚卸資産の時価を期末棚卸資産の評価額とする方法です。

 原価法には個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6種類があり、原価法と低価法あわせて7種類の評価方法からそれぞれの企業の実態にあった評価方法を選ぶことができます。

そこで、それぞれの評価方法について解説していきたいと思います。

個別法

棚卸資産それぞれの仕入原価を評価額として計上する方法です。

最もシンプルな評価方法ですが、個々の仕入原価を把握する必要があり商品数が多い場合や頻繁に仕入れを行う場合に事務的負担が大きくなってしまうというデメリットがあります。

先入先出法

最も古く取得されたものから順次払出しが行われると仮定し、期末の棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして棚卸資産の評価額を算定する方法です。

期末に棚卸資産の仕入原価がわかるように、仕入ごとに仕入原価を確認する必要があります。

総平均法

一定期間ごとに取得した棚卸資産の平均原価を算出し、算出された平均原価によって商品の払出単価および期末棚卸資産の評価額を算定する方法をいいます。

期末に棚卸資産の平均原価がわかるように、仕入の都度、平均原価を算出する必要があります。

移動平均法

商品を仕入れた都度、保有する棚卸資産の平均原価を算出し、算出された平均原価によって棚卸資産の評価額を算定する方法をいいます。

最終原価仕入法

期末時点の一番近い日に仕入れた金額を原価として原価×在庫数で棚卸資産を計算する方法です。

毎回の仕入価格を考慮する必要がないため、事務的負担が比較的少なく企業で最も採用されている方法です。しかし、直近での仕入価格と時価との差額が大きい場合は、適切な評価金額が算定されないというデメリットもあります。

売価還元法

百貨店やスーパーなど数多くの商品を取り扱っている小売業で多く採用されています。

商品を種類ごとにいくつかのグループに分けてそのグループごとの原価率を算定します。その算定した原価率×商品グループの売価で棚卸資産の評価額を算定する方法です。

低価法

棚卸資産の時価を評価額とする方法です。

原価法である個別法や最終原価仕入法、売価還元法などで算定された商品の評価額が時価よりも高い場合に選択されます。デメリットとして、時価の把握が難しい棚卸資産には適用できないという点が挙げられます。

 以上のように、棚卸資産の評価方法はいくつかありますが、それぞれの企業の業態や棚卸資産の特徴を考慮した上でもっとも適した評価方法を選ぶことが重要となってきます。また、税務上毎期それぞれ違う評価方法を選ぶということは認められておらず、税法上『一旦採用した棚卸資産の評価の方法は特別の事情がない限り継続して適用すべきもの』とされています。

 毎期継続した評価方法で評価額を算定することは、評価方法を変えることで利益操作を行うことを防ぐ目的があります。加えて、税法上の法定評価方法である最終仕入原価法以外の評価方法を採用する場合は「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出し、原則3年以上の継続適用をしなければなりません。

自宅で開業!経費になる費用と仕訳の計上方法

 自宅を事務所として個人事業主もしくは法人として事業を始めた、もしくは会社として事務所を借りているが自宅でも事業の仕事をしているという方は多いのではないでしょうか?

特に、事業を始めたばかりのときは規模がまだあまり大きくなかったり、事務所を借りる家賃代も負担になったりと自宅を事務所として事業を行うことも多いと思います。

自宅で事業を行っている場合、どのような支出を費用として計上することができるのか気になりますよね。

そこで、今回は自宅で事業をしている場合に、一般的に経費となりやすい支出やその費用の計上方法などを具体的に見ていこうと思います。

また、経費として計上するためには、支出した日付や金額、支払先などが記載された領収書やレシート、受領証などが必要となります。最近は、ネット上で請求書を確認するという場合も多いと思いますが、そのような場合は紙で印刷しておく、PDFで保存しておくなどして、資料をすぐに確認できるようにしておきましょう。

経費として計上できる支出

具体的に経費として計上できる支出としては、

〇水道光熱費・通信費(インターネット・携帯電話代)

〇自宅の家賃(賃貸の場合)

〇自動車に関する費用(自動車・自動車税・ガソリン代・駐車場代等)

〇事業で使う備品関係(パソコン、プリンター、インク等)

〇自宅で仕事の関係者と打ち合わせのために飲食した場合の飲食代

などが考えられます。

ただし、事業の経費として計上するためには、「事業のために必要な支出」であることが前提となります。

自宅で事業をしている場合には、水道光熱費などは経費に計上して問題ありません。

しかし、たとえば、自宅で事業の作業がすべて完了するため事業では自動車を使わないという場合は自動車関係の費用を経費として計上することはできません。

では、それぞれの支出についてもう少し詳しく見ていこうと思います。

〇水道光熱費・通信費(インターネット・携帯電話代)

自宅で事業をしている場合、基本的に水道光熱費や通信費などは経費として計上できます。

ただし、支払った電気代・ガス代・携帯代などの全額を経費として計上することはできません。電気代やガス代、通信費などのように事業分と個人分が混同している支出については、支払った金額のうち事業で使った部分のみを経費として計上することができます。

詳しい仕訳の計上方法などは、後ほど詳しく見ていこうと思います。

(ただし、会社名義の携帯電話の場合は通信費や端末代金などを全額経費として計上できます。)

〇自宅の家賃(賃貸の場合)

自宅で事業をしている場合、毎月の家賃も経費として計上することができます。

ただし、先ほどの水道光熱費や通信費と同様に事業で使っている部分のみを経費として計上しなければなりません。

また、自宅を賃貸契約している場合は家賃の一部を経費として計上できますが、持ち家で住宅ローンを組んで住宅ローン控除の適用を受けている場合には事業として計上できる割合が決まっています。事業割合が多いと住宅ローン控除が受けられなくなる可能性があります。事業用の経費と住宅ローンについては、別の記事で詳しくまとめているので、ぜひそちらも確認してみてください。

住宅ローン控除制度と事業用経費について

〇自動車に関する費用(自動車・自動車税・ガソリン代・駐車場代等)

自宅で事業をしていると、自分の自動車を事業で使うという場合も増えてくると思います。取引先へ行くときや事業に必要な物品を購入するときなどに自分の自動車を使っているという場合には、自動車に関する支出についても事業で使っている部分について経費として計上することができます。

自動車に関する費用とは、自動車本体を固定資産として計上して減価償却費を計上する以外にも、ガソリン代や駐車場代や自動車保険、自動車税なども事業で使っている部分を経費として計上することができます。

〇事業で使う備品関係

事業として使う備品などについては自宅に置いてある場合でも、全額経費として計上できます。パソコンやプリンター、事業で使う机やイス、ラックなども経費として計上できます。

〇自宅で仕事の関係者と打ち合わせのために飲食した場合の飲食代

自宅で打ち合わせをした場合などは、その時の飲食代なども経費として計上できます。飲食代を経費として計上するときのポイントは打ち合わせや会議のときの飲食だったかという点です。最近は、ZOOMなどオンラインでの会議や打ち合わせも多く、家で自分1人分だけ飲み物や食事などを購入する場合もあると思いますが、1人分のみであっても、オンラインでの会議や打ち合わせ時の飲食であれば経費として計上することができます。

飲食代を経費として計上するためには、飲食の領収書(レシート)と一緒に打ち合わせを行った時間と相手を記録しておく必要がありますので、領収書と一緒にいつ誰と行った会議の飲食代かもわかるようにしておきましょう。

基本的に家族で使う日用品の購入や飲食代など事業と関りがない支出については経費として計上することができません。経費として計上したい場合には、支払った時の領収書やレシート、受領証などをしっかり保管しておくようにしましょう

経費として計上できない支出

次は、自宅で事業をしているときであっても、経費として計上できない支出について見ていこうと思います。

〇個人の飲食代

自宅で仕事をしていて軽食をとるということもあると思います。仕事中の飲食であっても、自分1人のための飲食代は経費として計上することはできません。

ただし、仕事の関係者と飲食をした場合や打ち合わせをしたときのコーヒー代などは経費として計上できます。

〇仕事でも私用でも使う洋服代

自宅でリラックスして仕事をするためにルームウェアなどを購入する場合もあるかもしれませんが、これらの洋服代は経費としては計上できません。

ただし、仕事でしか使わない衣服や従業員を含め仕事用のユニフォームとして洋服を購入した場合や会社の名前などを刺繍した衣類を購入した場合などは経費として計上できます。

経費の家事按分の割合の決め方

これまで、事業分と個人分が混同している支出は、事業で使った分だけを経費として計上できると書いてきましたが、では実際にどのくらい経費として計上できるのか見ていきたいと思います。

支出した費用を事業分と個人分に按分することを家事按分といい、この家事按分の事業用と個人用の割合については明確な規定はありません。

それぞれ事業での使用量や使用頻度などから自分で合理的に妥当な割合を決めることになります。

ただし、自由に決められるといっても、合理的に認められる割合で、税務調査などで質問されたときにある程度説明できる按分割合を決める必要があります。

家事按分の決め方の目安としては、自宅で仕事をしている日数や時間、家賃の場合は事業のために使用している面積などを参考とすることが多いです。

インターネット代として1か月で1万円支出して、ほぼ半分くらい事業で使っているという場合は「事業用50%:個人用50%」としてインターネット代として支払った1万円のうち50%の5,000円を経費として計上できるということになります。

電気代・ガス代・水道代・インターネット代などの事業分と個人分が混同している支出については、それぞれの事業の実態に応じて事業での使用割合を決めるようにしましょう。

経費の家事按分の仕訳

先ほど、家事按分の事業用と個人用の割合は事業での利用頻度や使用量などに応じてそれぞれ決めることができると説明しましたが、次は、事業用と個人用が混同した支出の仕訳の方法について詳しく見ていこうと思います。基本的に、事業で使用した分の費用が計上されていれば問題ないため、いくつかの仕訳の方法があります。

今回は通信費として毎月10,000円支払っており、事業での使用頻度から、支出した金額のうち50%を事業用として費用計上したい場合の仕訳方法を見ていこうと思います。

(今回の仕訳は個人事業主の場合の仕訳を例にあげています)

①毎月の支出額を事業分と個人分に分けて計上する方法

毎月、支出をした費用を事業分と個人分に分けて経費計上する方法です。

毎月の仕訳の入力が多少煩雑になりますが、毎月の経費や利益を正確に把握することができます。

毎月の仕訳数が少ない場合は、このように毎月支出を家事按分しても良いですが、仕訳数が多くなると仕訳の入力が煩雑になります。

②毎期末に年間の支出額を事業分と個人分に分けて計上する方法

こちらは、毎月の支出額の全額を経費として計上して、期末に経費から個人利用分を引くという計上方法です。

年間の支出金額を見てから、家事按分の割合を決めることができ、毎年期末に個人利用分の仕訳を計上すればよいので、仕訳の入力が①よりも簡潔になります。

③毎月(毎期末)事業用の経費分のみを費用として計上する

こちらは、個人の資金から支払った支出のうち、事業用部分のみを経費として計上するという方法です。

この仕訳方法でも問題はありませんが、実際に支払った通信費の支出額がわからないため、会計データを見たときに、家事按分の割合がわかりにくいという問題点があります。

①~③までのどの方法で経費を計上しても、会計上は問題ありません。

自宅の水道光熱費や通信費、家賃などを経費として計上する場合には、事業用の資金から水道光熱費や通信費、家賃などの支払いをして、個人分は仕訳で事業用の費用から引くという①・②の方法と個人のお金から水道光熱費や通信費、家賃などを支払い仕訳で事業用の経費部分を計上するという方法があります。

事業用の資金から支払っても、個人分の資金から支払ってもどちらでも問題ありません。

ただし、年間の支出額を確認してから家事按分を決めたい、後から見たときに家事按分の割合がわかるようにしておきたいという理由で①・②の計上方法を採用している場合が多いです。

まとめ

今回は自宅で事業をしている場合に経費として計上できる支出や経費として計上できる費用の具体的な仕訳方法などを見てきました。

また、今回紹介した支出以外でも、事業で使っている支出については経費として費用計上できます。自宅で事業をしていると、意外と色々な支出を経費として計上することができますが、支払った支出に事業分と個人分が混ざっている場合は、家事按分をする必要があり、また、経費として計上できるか判断が難しい支出なども多くあると思います。

費用として計上できる支出について詳しく知りたい、仕訳の計上方法を知りたいという場合には、会計事務所へ相談することをおすすめします。

個人が事業を開始するときに必要な届出は?

個人で事業を始めようと考えているけれど、提出する書類がわからないという方も多いのではないでしょうか? 今回は、個人で事業を始めるときに必要な届出について詳しくみていこうと思います。

個人で事業を始める場合に必要な届出(共通)

まず、事業を開始する場合、「開業届」と「事業開始等申請書」の提出が必要です。

税務署へ提出する「開業届」と各都道府県・市区町村へ提出する「事業開始等申請書」は、事業を開始する個人全員が提出する必要があります。

開業届

一般的に「開業届」と言われていますが、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。

開業届は「開業から1ヵ月以内」が提出期限となりますが、個人の事業の場合は、明確な開業日がわからない場合も多くあると思います。法律上も明確な開業日の定義はないため、個人の開業日についてはホームページを作成した日や実際に取引を始めた日、事業にとりかかり始めた日など自分で自由に決めることができます。

また、開業届に開業日を記載する欄がありますが、この開業日は過去の日付でも今後開業する予定で未来の日付を書いても問題ありません。

事業開始等申請書

税務署へ提出する開業届の他に、「事業開始等申請書」をそれぞれの都道府県税事務所および市区町村へ提出します。

都道府県税事務所および市区町村へ提出する事業開始届は、都道府県ごとに様式や提出期限が違っています。

例えば、東京都の場合は「事業開始等申告書」という名称で提出期限は事業開始の日から15日以内、神奈川県の場合は「個人事業開業・休業・廃業届出書」という名称で提出期限は事業を開始してから1月以内となっています。

 都道府県税事務所へ事業開始届を提出する場合には、それぞれの都道府県のホームページなどで書式や提出期限などを確認するようにしましょう。

個人の場合は、基本的に税務署へ「開業届」、都道府県税事務所へ「事業開始等申請書」をそれぞれ提出すれば、開業に関する最低限の届出は完了です。

どちらの届出も作成・書式や書き方の説明などは国税庁や各都道府県税事務所のホームページに掲載されています。

 また、どちらの届出も提出をしなかった場合の罰則はありませんが、税金の優遇制度が受けられなくなるなどのデメリットがあります。

開業届は明確な提出期限がなく、提出しなかった場合の罰則などもないことから、事業の売上が安定し、継続的に事業を続けていく見通しが立ってから届出を出しても問題ありません。

 ただし、届出を提出していなくても、所得(事業の利益)がある場合は確定申告が必要な場合がありますのでご注意ください。

個人で事業を始める場合に必要な届出(必要な人のみ)

個人で事業を開始した場合、「開業届」と「事業開始等申請書」を提出すれば開業に必要な手続きは完了です。しかし、事業の利益が出ていて税金の優遇制度を活用したい場合や配偶者や親族に給与を支給している場合などそれぞれの事業の状況によっては開業届以外にも提出が必要な届出があります。

青色申告の承認申請書

青色申告の承認を受けたい場合に提出します。

開業届を提出していても、青色申告承認申請書を提出していない場合は、白色申告で確定申告を行います。

 この青色申告承認申請書を提出し、期限内に確定申告を行うことによって青色特別控除として最大55万円(電子申告の場合は65万円)の所得控除が受けられます。

この青色申告特別控除を受けるために、開業届と同時に青色申告承認申請書を提出する場合が多いです。

申請書は国税庁のホームページからダウンロードでき、提出期限は、青色申告の承認を受けようとする年の3月15日までですが、その年の1月16日以後に開業をした場合は、開業した日から2カ月以内に提出をします。

青色専従者給与に関する届出・変更届出書

青色申告をしている事業者が配偶者や親族へ支払った給与を経費として計上したい場合に提出します。青色申告をしている事業者は、この届出を提出しないと配偶者や親族へ支払った給与を経費として計上することはできません。

 白色申告の場合、専従者へ支払った給与は必要経費として計上できる金額に上限があり、配偶者は86万円、配偶者以外の専従者は50万円までを必要経費に計上できます。しかし、この青色専従者給与を提出することで、専従者へ支払った給与の全額を必要経費へ計上することができます。こちらも、青色特別控除と同様に大きな節税効果が期待できます。

青色専従者給与に関する届出は、基本的に一度提出してしまえば、その後は毎年提出する必要はありませんが、届出に記載した給与の金額以上を専従者給与として支給した場合や新しく専従者給与を支払う人が増えた場合などは、再度提出が必要となります。

 提出期限は、青色申告承認申請書の期限と同じく専従者給与を経費として計上しようとする年の3月15日までです。しかし、その年の1月16日以後に開業した場合や年の途中から専従者として給与を支給した場合には、開業した日・専従者を雇い始めた日から2カ月以内が提出期限となります。

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

給与や退職手当の支給時に徴収した(給与から天引きした)源泉所得税、税理士等へ報酬を支払うときに徴収した源泉所得税の納付期限を変更する届出です。

原則として、源泉所得税は徴収した月の翌月10日までが納付の期限となりますが、毎月源泉所得税の計算と納付を行うのは大変です。そこで、従業員の人数が常時10人未満である場合は源泉所得税の納期の特例制度が認められています。

この届出を提出することにより源泉所得税の納付が半年に1回でよくなります。

(申請書の提出によって1月~6月分は7月10日まで、7月~12月分は翌年1月20日までが源泉所得税の納付期限となります。)

源泉所得税の納期の特例の届出を提出することによって、給与や税理士等への報酬を支払った時の事務作業の負担を軽減することができます。

こちらの申請書も国税庁のホームページから書式をダウンロードでき、提出期限などはありません。(原則提出した日の翌月に支払う給与等から適用されます。)

給与や税理士への報酬の支払いがある場合は、他の申請書と同様に開業届と一緒に提出する場合が多いです。

これらの届出は、開業するときに必ず提出が必要な書類ではありません。しかし、実際は開業するときに開業届と一緒に提出する場合が多いです。

 これらの届出を提出しない場合の罰則などはありませんが、届出を提出していない場合は青色申告特別控除が受けられなかったり、専従者給与が必要経費に算入できなかったりと税金の優遇制度が受けられなくなってしまいます。

 それぞれ必要な届出を忘れずに提出し、事業の状況に応じてより効果的な節税対策をしていきましょう。(また、業種によって必要な届出が変わってきますのでご注意ください。)

今回は、個人で事業を開業するときに必要な届出ついてみていきました。

個人の場合は、開業届と事業開始等申請書を提出し、その他の届出についてはそれぞれの事業の状況によって必要に応じて提出することになります。

開業時から届出の提出をしっかりと行うことで、事業所得の大きな節税効果が期待できます。

 個人で事業を始めようとしている方、自分の事業の売上や収益がある程度安定してきたから本格的に事業を営んでいきたい方はぜひ開業前に税務署や会計事務所などに相談してみてはいかがでしょうか。 (今回の記事は2021年11月時点の情報をもとに作成をしております。)

個人が開業するメリット・デメリット

個人が開業するメリット・デメリット

以前の記事では、個人で事業を開業するときに必要な届出についてみていきました。

事業を開業するときに提出する開業届や事業開始等申請書などは、明確な提出期限がなく、届出を提出するタイミングがわからないという場合も多いと思われます。

そこで、今回は個人が開業届を提出して事業を始めた場合のメリットとデメリットをそれぞれ見ていきたいと思います。

開業届を提出して開業をするメリット

①青色申告をすることができ、青色申告特別控除がうけられる

開業届を提出することによって、青色申告承認申請書も提出することができるようになります。青色申告では、複式簿記で作成した決算書等を期限内に提出することによって最高55万円(電子申告の場合は65万円)の所得控除を受けられます。 白色申告の場合は、このような所得控除はありません。

また、開業届を提出しないと、青色申告特別控除申請書の提出はできませんので、青色申告特別控除を受けるためには、開業届と青色申告特別控除申請書の両方を提出する必要があります。(実際には、開業届と一緒に青色申告承認申請書を提出する場合が多いです。)

②青色専従者給与を経費として計上できる

白色申告の場合は、専従者給与のうち配偶者は86万円、その他の専従者は50万円までしか必要経費として計上できませんが、青色専従者給与に関する届出・変更届出書を提出することで、配偶者や親族に支払った青色専従者給与を全額必要経費として計上できます。

青色専従者給与に関する届出を提出するためには、開業届と青色申告承認申請書の提出が必要となります。

③損金の繰越しができる

事業で損失が出た場合にその損失の金額を翌年以降3年間繰越すことができます。つまり、1年目の利益がマイナスで2年目の利益がプラスになった場合は、2年目の利益の金額から1年目の損失の金額を控除して所得税を計算することができます。

白色申告の場合は、損失がでても翌年以降への繰越しはできません。

開業届を提出して開業をするデメリット

①失業保険を受けられない可能性がある

失業保険とは、基本的に「再就職を目指している人」が対象となっています。会社で勤めていた時に開業届を提出し事業を始め、その後、会社を辞めた場合は失業保険の給付の対象とはなりません。

 また、失業保険の受給中に開業届を提出して事業を開始した場合も、開業届を提出した時点で失業保険の対象ではなくなり(再就職したとみなされる)、失業保険の給付が終了することが多いので注意が必要です。

 ただし、開業届を提出して事業を開始していても、失業保険の受給の対象となる場合があります。自分が失業保険を受けられるかを知りたい場合は、お住いのハローワークへ確認してみると良いでしょう。

②帳簿の形式が複雑になる

開業届と同時に青色申告特別控除申請書も提出する場合も多いかと思われます。白色申告の場合は単式簿記での記帳が認められていましたが、青色申告は、複式簿記による帳簿の作成が義務づけられるため、会計帳簿の作成が複雑になります。

開業届と青色申告承認申請書を提出し事業を開始することによって、青色申告ができるようになり、青色申告特別控除が受けられたり、損失の繰越しができたりするようなります。他にも届出を提出することで、様々な税金の優遇制度が受けられるようになります。しかし、大きなメリットもある一方で、失業保険が受けられない、帳簿の作成が複雑になるなどのデメリットもあります。

 開業届を提出するかどうかや開業届を出すタイミングについては個人や事業の状況をみて判断することが重要となってきます。

 また、どの届出を提出すればよいかわからない、自分の事業のより効果的な節税方法が知りたいという場合には、開業届を提出する前に会計事務所などで相談してみると良いのではないでしょうか? (今回の記事は2021年11月時点の情報をもとに作成をしております。)