中小企業の最終的な目標、目指すべき場所

 会社を設立する目的は、合法的な節税のためであったり、不動産管理会社の運営のためであったり、実は多くの理由がありますが、殆どの方は自分の事業をより成長させるためではなかろうかと思います。(会社法で言う所の会社には主に株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社の5つが存在していますが、今回は基本的に株式会社に限定してお話させていただきます。)

 「会社を成長させ、安定して経営していくのは当然なのだけれども、最終的にはどこを目指していくべきなのだろう」、税理士事務所で中小企業の法人顧問をさせていただている時、ふと自分自身で疑問に思ってしまったことがあります。それは当然、中小企業の経営者であるお客様の求める結果なのですが、お客様ご自身がそれを模索している最中であることもしばしばです。

 東京商工リサーチの2019年「全国新設法人動向」調査では、

 2019年の新設法人は、13万1,292社(前年12万8,973社)だった。2018年はリーマン・ショック直後の2009年以来、9年ぶりに減少したが、1年で再び増加に転じた。
 2019年の休廃業・解散は4万3,348社、企業倒産は8,383社だった。市場からの退出も多いが、新設法人が市場の新陳代謝を促し、経済活動の活性化の一翼を担っている。

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200529_02.html

 毎年、13万社以上の会社が設立され、それとは逆に5万社以上の会社が休廃業・解散又は倒産しています。

 また同年2019年のJPXの新規上場基本情報のIPOの数をみると、全体で90社のIPOが実現し、上場会社の仲間入りを果たしたことが伺えます。

 これが会社の経営の最終的な結果の統計値ということになります。

 避けなければいけないのは倒産

 言うまでもないことですが、避けなければならないのが倒産です。倒産とは債務超過で事業活動の継続ができなくなってしまった状態を示します。会社の経営者が会社債務の連帯保証人になっていればその負債の弁済義務を負いますし、会社の債務不履行の効果は会社との取引があった様々な取引先に波及し、経営者は信頼を失い、今後の社会的な活動に多くの制約が生じるでしょう。

 では会社の最終的な目標、目指すべき場所とは

 中小企業の最終的な目標、目指すべき場所とは概ね以下の4つではないでしょうか。

①IPOで上場会社の仲間入り

②後継者への事業承継

③売却して換金

④清算して解散

 IPOで上場会社の仲間入り

 会社の業績が狙い通り、又は思いもよらぬほど順調で毎年継続して利益が上げられ、会社の実質的な商売の規模が膨らんでくると、IPOで上場会社の仲間入りということも視野に入ってくるでしょう。(ベンチャー企業の上場に向いている東証マザーズを例として考えると、株主数は200人以上、時価総額10億円以上などが形式的な要件)
 株式上場に至るまではかなり多くの手続きが必要となり、監査法人の監査や証券会社の審査など厳密なチェックがはいりますので、成否にはIPO専門のコンサルタントが欠かせなくなります。

 無事に上場を果たすと株式市場の取引により資金調達がしやすくなり、より大きなビジネスがしやすくなりますが、会社のステークホルダーも飛躍的に増えます。
 従前の会社の経営者は上場した会社でより高度な経営に腕を振るうか、あるいは自分の手持ちの会社株式などを売却するか、など様々な選択肢が与えられます。

 後継者への事業承継

 経営者が育ててきた事業を何らかの形で、その子供や会社の従業員に譲ることで、自らが退くことをいいます。これは長年中小企業を経営してきた社長にとっては大変喜ばしいことではないでしょうか?自分が人生を捧げてきた事業が今後も残された家族や従業員が成長させ、その人々のなかで受け継がれしっかりと生きていくのです。

 事業承継の方法は承継の相手方や事業の実態などにより多岐にわたります。事業単位で譲渡するか、あるいは相続や贈与などで株式を譲るかなどです。税制面はもちろんですが、何よりも事業承継後の会社を円滑に経営するために長い準備期間をもつことが好ましいです。残された経営者が会社の取引や財務の実態などを知らずに会社の経営することになれば混乱は必至ではないでしょうか。

 売却して換金

 近年は中小企業のM&A市場も活発になってきており、上場して会社の株式を市場で売却や後継者のへの会社の譲渡のほかに、経営者が保有する会社の株式を、仲介会社をつうじて売却して換金するというのも現実的な手段になってきました。

 株式の譲渡対価のベースとなるのは企業価値評価です。

 上場会社の場合、企業価値評価は将来と過去の収益力に基づくインカム・アプローチ(DCF法、収益還元法など)、市場の類似した会社の企業価値に基づくマーケット・アプローチ(類似業種比準方式、類似会社比準方式など)、資産の全部または主要な一部を時価換算するコスト・アプローチ(時価純資産価額法、修正簿価純資産法など)のいずれかまたはいくつかの折衷案により、当事者間で譲渡価格を決めていきます。

 ただし中小企業である未上場の企業では株式の市場価値相場からは算出できません。したがって、価格については交渉次第となることがほとんどです。
 交渉の目安として将来の収益に着目するDCF法などを基に算定した収益方式あるいは時価純資産価額法などをベースとした資産方式、あるいはそれらの併用方式が交渉の土台になります。

 株式の売却により経営者は経営から離れることでその後の会社からの利益は期待できませんが、企業価値次第では多額の現金を受け取れる可能性があるとともに、その後との会社経営の諸々のリスクからは解放されます。また会社債務について連帯保証を行っている場合には、金融機関や譲渡先との交渉には慎重になりましょう。

 清算して解散

 会社の清算とは要は会社が存在しなくなることを示しますので、ネガティブな印象を抱きがちですが、そうとは限りません。

 まず整理しておかなければならないのは、会社の倒産と清算はかなり意味がちがうということです。倒産は債務不履行により会社が強制的にそのままの状態では存続できない、もしくは存続しなくなることを意味し、清算とは債務の有無にかかわらず自発的に会社の存続をやめることをいいます。もちろん残った債務の弁済義務を負うことになりますが、倒産とは状況が違うことはわかると思います。

 つまり資産が残った状態での清算もありうるということです。

 何らかの理由で会社の将来の存続が危ぶまれた場合、このまま固定費を払い続けていくことや、事業を継続する諸々のリスクを負担するよりは、清算して会社に蓄積した利益部分を経営者などの株主に還元するというのも現実的な手段のひとつです。
 経営者は還元された金銭などを新しい事業や生活の元手に再出発をすることになります。

 会社の清算の場合、会社に残された資産負債の差額である純資産価額が配当により株主に分配されます。

 まとめ

 中小企業の最終的な目標、目指すべき場所について説明してきました。 

 商売は生き物です。ほんの一瞬で経営環境は様変わりしていきます。

 「当初、上場を目指してきたけれどもなかなかうまくいかずに、お金があるうちに清算してしまおうか」、あるいはその逆に、「期間限定的なビジネスである程度の利益の蓄積ができたら市場が下向く前に清算するつもりが結果的に上場を視野に入れるに至る。」などということも大いにありうるのです。大切なことは、会社の財務状況、経営者の状況、ビジネスの先行きなどを常に整理し、目指すべき方向を適宜定めていく準備です。

 そのための指標となるのが、毎年の決算書の数値であり、毎月の試算表の推移、そしてそれらを基にした現時点での企業価値評価です。結果的に高い企業価値があれば、上場を目指す、安定した事業承継をする、売却して換金するなど、前向きな選択肢を増やすことができます。

 「でも、それって結局は利益を出せってことでしょ?そんなの誰だってわかるよ。」と思われる方も沢山いらっしゃると思います。
 もちろん、利益を出し、それを積み上げることは会社にとって最重要課題です。
 ただし企業価値評価という側面でいうと、それだけではないのです。DCF法などによる将来の「営業利益」を生みだす力も重要な基準のひとつとなります。たとえ現状が厳しくとも、そのビジネスが利益を生み出す力を磨き続け、その将来的な収益力を証明するにたりうる合理的な数値を残すことができれば企業価値はあがります。

 ぜひとも企業価値の向上につとめてください。